第22話 森でモンスターに遭遇しました

 森の中は鬱蒼としていたけれど、木漏れ日が差し込んでいて真っ暗というほどではない。下草は入る光が少ないせいなのか、芝生程度にしかのびていなくて歩きやすくて助かった。


「ひとまず、ポーションの材料探しですね」


「ああ」


 アルさんは周囲を伺いながら、私の手を引いて歩く。歩きづらくないのか、ちょっと心配になる。


「ちょっとだけ立ち止ってください」


「うん?」


 ポーチの中から小さな草刈り鎌を取り出して、握りしめる。


「<<豊穣探索ハーヴェスト・サーチ>>」


 脳内にマップ画面が広がって、おおよその目的物の方角が分かる。これ便利なんだよね。


「あっちの方角です」


 草刈り鎌を片手に指をさしてみれば、アルさんがきょとんとした顔をして私の顔を見ている。


「あ、えと、実は生産スキル以外にもいろいろ持ってまして」


「なるほど。工房で詳しく聞かせてもらおう」


 うへー。悪い笑顔をしてらっしゃる。言わなかった私も悪いけどさ。でも、ちょっとだけ弱弱しい感じがなくなっただけ良かったのかな。


「あ、あそこに薬草が」


「ちょっと待って、マーヤ」


 走り出そうとした私を制止して、アルさんが手ごろな場所の枝を折るとその薬草が生えている辺りに投げ入れた。

 途端に、ぐわっと地面が盛り上がって、角の生えたうさぎが姿を現す。


「ひぇ」


 油断して駆けだして言ってたら、下から一突きという算段だったのかな。なんだか、怒っている気配がする。ぴょんこぴょんこ飛び跳ねている姿は可愛いんだけどなぁ。

 確か、ホーンラビットは見た目とは裏腹に肉食なのだ。図鑑か何かに乗っていて、嘘だろーと思った覚えがある。


「さて、マーヤが打ち直してくれたこの装備。試してみるよ」


「は、はいっ!」


 そうでした。今日はそれも大事な仕事の一部でした。なんかいちゃもん付けられたせいで、若干忘れかけていたよ。いけない、いけない。

 アルさんが駆けだしていってすぐ、足元からもう一匹別のホーンラビットが姿を現した。それをひらりと避けて、角で突進してくるホーンラビットをダガーでいなす。ふむ。やっぱりその使い方かぁ。もうちょっと強度あげてもいいのかも。長剣を一閃すると綺麗に角が折れて、そのまま返す刀で首を刎ねる。無駄の一切ない動きに惚れ惚れする。

 うん。でもやっぱりあれだな。多勢に無勢となると、あの形では問題が出てくるだろう。そうなると、私に出来ることは何になるのかなぁ。


「おしまい!」


 もう一匹のホーンラビットの首も刎ねて、アルさんは私のところに戻ってくる。


「とりあえずは大丈夫だと思うけど、いっしょに行こう」


 手を差し出されて、万が一があった時はいろいろ困るんではないかなーと思いつつ私はアルさんといっしょに歩いて向かう。薬草は無事に採取出来て一安心。ついでに依頼数の他にも取っておいて自分のストックにした。帰ったらまたポーション作らないとだし。


「あ、そうだ。アルさん、これも付けてみてください」


「何?」


 ずるーりとポーチから出てきたとは思えない感じで取り出したのは、マントだ。フードが付いていて雨にも対応。風魔法も付与されていて見た目よりは軽い。


「これは……」


「マントはいらないって言ってましたけど、付けておいた方がいいと思って」


「ああ、でもこんな上等なものは」


 うん。拒否すると思ったー。これはもう伝家の宝刀を抜かざるをえまい。


「何とこれ、私とお揃いなんですよ!」


 テレホンショッピングの販売員さんばりの笑顔でもう一枚同じようなマントを取り出して見せる。うん。ペアルックである。色味が違うけどね、そこはね。


「マーヤとお揃いなんだ。え、でも、いいの? 本当に?」


「いいんです!」


「恋人同士みたいだ」


 ふわっと笑顔になられて、私はなんというか返答に困った。そんな嬉しそうな顔をするなんて、思わないじゃない。いや、こう言えばきっと断らないだろうなーとは思ったけど、予想よりもいい反応をいただいてしまった。


「早速着けてみるよ。マーヤも着けるよね」


「う、あ、はい」


 問答無用でお揃いの格好になってしまった。うまいこといったような、うまく乗せられたような?

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