第17話 勇者の装備の作成、始めました
さて、とびっきりの装備を作ると意気込んだはものの、私が作れるものの中で最高品質にして最高級のものなんかを今出したら、多分怪しまれる。偽装してもいいけど、万が一見破れる人がいた場合非常に面倒だ。
そういうわけで私はひとまず、アルさんの装備をアップデートするところから取り組むことにした。
「アルさんの装備って、これだけなんですか?」
「うん」
広げてもらったのはアンダーシャツとアンダーパンツ、それから革鎧と同じく革製のブーツ。
剣はロングソードとダガー。どれも使い込まれていて、まぁ端的に言ってしまえば、使い古し感が出ている。
「体は再生できるけど、装備はそうもいかなくて、何度も買い替えてたら……」
「あー」
それは相応の出費になってしまうということだ。つまり、装備が壊れるほどの命の危険にも晒されているということになる。
「アルさんはマントしないんです?」
「ちょっと邪魔かなと思って」
「素材が軽くて、動きの邪魔にならないものだったらいいんですか?」
「そんな魔法道具みたいな代物、なかなか手に入らないよ」
へー。ほほーう? なるほど。これはちょっと改善点も見えてきたかな。
「アルさん、盾もあった方がいいですよね」
「……何で?」
不意に言葉に剣呑さが宿った。ちょっと驚いて、書き出していたメモ用紙から顔をあげてアルさんの顔を見る。不機嫌というよりかは、なんというか、何故そんなことを聞くのだろうか、という顔だ。
「なんとなく?」
「盾は使ったことがあまりないから、いらないかな」
「りょーかいです」
何故だろう。アルさんを見た時に盾が思い浮かんだんだよね。何故かは分からない。それが何を意味しているのかも分からない。ただ、直感が告げている。アルさんには、盾が必要だ。
私はこっそり作るものリストに盾を入れておいた。
「とりあえずは下に着るものから、強化していこうと思います」
「うん」
「ひとまず、糸と布を作って補強していく感じにしますね」
着ていた服から型紙をとって、糸の素材を糸巻きにセットして紡いでいく。これ、こういう仕組みだったんだなぁ。家庭科は苦手だったけど、ゲーム内のスキルレベルが反映されて体がさくさく動いてくれるから楽ちんだ。
「いーとーまきまき、いーとーまきまき、ひいーてひいーて、とん、とん、とん」
何故か糸を紡いでいるとその頭が脳内を流れていく。
「アルさん、暇じゃないですか?」
「マーヤがクラフトしているのを見ているのが楽しいから大丈夫」
にこにこしているアルさんには先ほどの雰囲気はない。出しておいた紅茶とたまにクッキーをつまみながら、私の作業を眺めている。なんかもぞもぞするんだけど、とりあえず集中、集中。
しゅぱぱーんと光が散らばって、ハイクオリティ品の糸が仕上がる。そこから次は布を作る。段階を踏んで作るのはちょっと面倒だけど、しっかりとした品物を作りたいときには欠かせない。
「よし、ひとまずアンダーシャツとアンダーパンツの素材はこれで大丈夫かな。あとは革かぁ」
革は獣の皮をなめして作る。本当の工程は恐ろしく時間がかかることは分かっているのだけど、スキルがあるとちゃちゃっと出来てしまうので便利なようで、空恐ろしくもある。
「獣の皮なら、いくつかあるよ」
そう言ってアルさんが腰に付けていたポーチから何枚か獣の皮を出してくれた。柔らかいものと丈夫なもの。うん。十分すぎるくらい、いい品物なのが鑑定を使わなくても見ただけで分かる。
「使ってくれると嬉しいな」
「ありがとうございます」
自分が持っている在庫が無いわけではないのだけど、ご厚意は有難く受け取る。綺麗になめして革鎧とブーツの材料にする。クラフターになろうと思ったきっかけは、ごくごく些細なことだった。制作業というものが存在すると知って、それから手当たり次第にいろんなものを作ったり直したりしているうちに、その作業に没頭することがすごく好きなのだということに気付いたのだ。
誰とも話さず、誰とも触れ合わず、ただ、作り続ける。本来はいろんな人に仕事を割り振ったりして、自分が苦手なものを補ってもらったりするのが普通なんだろうけど、作り続けるこの作業が好きすぎた私はありとあらゆる作成物を自分の手で作ることに喜びを見出してしまったのだ。
(だから出来るだけ引きこもってたいんだけど)
ちら、とアルさんを見ると目が合う。銀色の髪のイケメンはにっこりと笑う。
汗を拭いながら私も、それに合わせて笑う。うまく、笑えているのかは自信はないけど。
(出来るだけいいものを作ろう)
私に出来ることをするとあの時決めたのだから、妥協は許さない。出来るだけいいものを出来るだけいい状態で渡すために、私は黙々と装備の作成をすすめるのだった。
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