第18話 装備が完成したので試着をしました
やわらかい革で作られたレザーアーマーを補強して、より品質のいいものを作り出した後は、今までのと変わらないように敢えて汚してみたりして不自然に新しい装備を揃えたように見えないように、こつこつとひとつひとつ整えていく。足回りの不備は命取りにも繋がるので、ブーツも丁寧に直していく。
刃こぼれしていた長剣とダガーは、それぞれ刀身を同じサイズで切れ味の増したものと刃こぼれがしにくいものに変更した。こちらもぱっと見では分からないように細工をしておく。
ずっと、アルさんは一人で戦っていたのだな、と改めて思う。ダガーは盾の代わりも兼ねていたようだったので、念入りに調整をした。
「とりあえず、一度装着してもらってもいいですか?」
一通りが終わった頃には、外は夕暮れが近づく時刻になっていた。もう夕飯の時間も近いから、明日に先延ばしをしてもいいとは思ったけれど、職人としてはどうしても、調整したものがちゃんと上手くいっているのか、試してほしいと思ってしまうのだ。
「すごいね」
「はい?」
「ここもだけど、手際がいいなぁって思って」
「あ、あはは」
そりゃあスキルもカンスト、素材もいいものが揃ってるとくれば、いいものを作らないと職人としての腕が廃るというものなのですよ。言わないけどね。
「こっちに剣を振るう用の木人も用意してあるので」
「至れり尽くせりだ」
そう言って椅子から立ち上がったアルさんはぱぱぱっと服を脱いで、パンツ一丁になると手際よく着替えを開始した。私は上着を脱いだ時点で慌てて後ろを向いたんだけどね、うん。間に合わなかったのです。怪我だらけの体。見えてしまった。超回復があっても、あったとしても、あの傷はきっとひとつひとつ痛んだと思う。
「うん。違和感はないね」
振り返れば革鎧を着こみ、ブーツを履いたアルさんがいる。何の躊躇いもなく、装着してくれているのは嬉しいんだけど、少しは疑ってもいいのになぁ。何かあったらどうするんだろ。しないけど。
「あと、これも付けてください」
「手袋?」
「指のないタイプですけど、肘まで長さがあるのである程度の防御力も見込めます。あと、剣を握る時に汗とかで滑りづらくなるかなと思って」
「なるほど」
手袋をはめて、手の感覚を確認している。本当はこんなギリギリに渡すようなものではないんだけども、剣を取り落とすのは命にも関わると思うので、これは譲れない。
「一旦、いつもの感じであれに切りつけてもらっていいですか?」
「あの丸太で出来た人みたいなやつに?」
「いつもの動きをしてもらって、違和感があれば調整します」
それが私の仕事なので。とは、言わなくても伝わったようだ。とんとんと軽く跳ねて、それから切りかかっていったアルさんの動きに迷いはなかった。私は必至でその動きを目で追う。彼が気付かない違和感を取りこぼさないように、しっかりと目に焼き付ける。
アルさんの剣の動きは型通りのものではあるけれど、少し荒々しい。綺麗に型の通りに動けたら無駄が無くなるわけでもないので、この辺は難しいところだ。
長剣とダガーはそれぞれの役目をきちんと果たしている。連撃を打ち込んで、それからアルさんはちょっと驚いたような顔をして自分の手と足元を見ていた。
「どうしました? 何かおかしいところがありました?」
「いや、逆。すごいな、本当に」
腰に佩いた鞘に長剣とダガーをそれぞれ納めると、私のところへと駆け寄ってくる。
「ありがとう、マーヤ」
ぎゅうっと抱きしめられて、私は思わずそれを受け入れてしまった自分に戸惑っていた。いや、いやいやいや、抱きしめられ慣れをし始めたとかは思いたくない。思いたくないよ?
「アルさん、く、苦しいです」
「あ、ごめん」
物理的にというよりかは、心理的に苦しい。心臓がドキドキしすぎちゃって、何かいろんなことがヤバーイてなもんだ。
そっと離れると、なんだか寂しい。
ほらーもーおかしくなってきた。いかん。思い出せ、引きこもりの自分! 心の壁を作り出すのだ!
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