第15話 二人きりでお話をすることにしました
勇者の秘密を知ってしまった。いや、秘密というべきなのか?
秘密でもないのか。きっと、彼にとっては。
ギルドで依頼完遂の印を押してもらった依頼書を渡して、お金をもらった。自分で稼いだお金が手渡しされるとなんというか喜びもひとしおだ。昔々、高校生の頃にバイトをしていた頃を思い出す。
隣でにこにこしているアルさんを見上げると、何故だか胸が苦しくなる。これは神さまが私に与えた仕様か何かなのだろうか。勇者を見ると動悸が激しくなる。いや、どんな仕様よ、それ。
「宿代くらいは払えるかな」
また新しい依頼書をもらって枚数を確認しながら私がそう呟くとアルさんは力強く頷いてくれた。
「ウル姉のところは良心価格だから大丈夫」
「そっか」
見ず知らずの女を助けちゃったアルさんといい、ウルフィーナさんといい、優しい人たちが多いんだろうなぁ。この街は。だからこそ、彼一人が戦っている現状をどうにかしたい。彼一人だけが戦わなければならない理由はないはずなのだ。私が大甘の甘ちゃんなのは自分でもよく分かっているからいいとして、そんな私に出来ることは一つしかないと思う。
作成だ。クラフトで、とりあえず装備を強化する。あと薬も作る。底上げして悪いことはないはずだ。
「……他の生産ギルドも」
「うん?」
「登録だけ寄りたいんだけど、いいかな?」
「他も?」
「うん……一通りね」
レベルがカンストしているとは言えない。ただ、信じてほしい部分もある。いろいろと言えないことがあるというのに、ただただ信じてほしいなんて虫が良すぎるのは分かっているけど。
「あの、アルさん」
「何?」
「お話したいことが、あるんです」
声が震えていた気がした。自分から秘密を切り出すというのはなかなか怖い。でも、言わないといけないと思ったから。どうしても、彼を助けたいと、思ってしまったから。
「……いいよ。じゃあギルド巡りが終わったら、宿屋のマーヤの部屋に行ってもいい?」
「はい」
自分の部屋に、と言わないだけでも好感度は高い。連れ込もうとしないあたり、本当に紳士なのだと思う。私はその顔がひどく真剣なことに、少しだけ動揺したけど、彼はそれを感じさせないように笑った。なんとなく、本当に何故か、なんとなく、だけど、寂しい、と思った。
生産ギルド同士の連携が密でなかったお蔭で、何も問題はなくギルドの登録は済んだ。錬金術ギルドに入っているということを伝えるだけで、ほんの少しだけどハードルが下がった感触があったので、最初にあちらに登録しておいてよかったと思う。
錬金術ギルド以外の納品の依頼書はひとまず受け取らずに宿屋へと戻ってきた。ウルフィーナさんはお出かけされているということで、私はひとまずアルさんといっしょに部屋に戻る。
何でだか、親の目を盗んで彼氏を家に連れ込むのってこんな感じなのかな? なんて勝手に思っていた。いや、実際やったことはないんだけども。
「ごめん。ちょっとだけ細工をしてもいい?」
「細工?」
「これ」
そう言ってアルさんが取り出したのは小さなビー玉みたいなものだった。透明な中にちかちかと何かの光が宿っている。
「よいしょ!」
気の抜けるような掛け声とともにそのビー玉を床にたたきつけると、閃光が部屋を満たした。けれど目に痛いものではなく、反射的に瞑った目をおそるおそる開けるとアルさんがそこにいて私のことを心配そうに見ている。
「
なるほど。使う前にその説明をしちゃうと駄目ということか。
「驚きました……」
「うん。ごめん」
最初の謝罪はこれのためだったのね。なるほど。
「いいえ。今教えてもらったので、もう大丈夫です」
「マーヤは本当に変わっているね」
「そう、ですか?」
「マーヤは神様に会ったことは、ある?」
いきなり核心を突かれて胸がぎゅーっと苦しくなった。うー、無理無理。コミュ障にはキツイ。でも話さないと、だめだ。
「アルさんはありますか?」
だから禁じ手である質問で返した。ごめんなさいぃぃ。
「あるよ」
あっさりとそう答えられて、私は何度かまばたきをする。
「神様に会って、俺は勇者になったんだ」
「神様から、言われたんですか?」
「言われた、と思う。実は、いろいろ忘れちゃったんだ、俺」
そう言って笑うアルさんの顔を見て、私はさっき笑顔を見た時に思った、寂しいという感じを思い出した。アルさんの笑顔は、たまにそういう風に見える。
私は聞いたらまずいことかもしれないと思いながらも、アルさんが話を続けるのを止めることは出来なかった。
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