第7話 錬金術ギルドにやってきました

 錬金術ギルドのシンボルはフラスコのマークだった。あーねー。何故かこれだよね。あんまり使わないけど、確かに薬研やげんとかだと分かりづらいのかな。薬系のものを作る時によく使うんだけどなー、ごりごりと。

 列がそこそこ出来ていたので、アルさんといっしょに並ぶ。まだ、手をつないでいる。なんとなく話すタイミングを忘れてしまって、かといって「離してください」なんて言ったら角が立ちそうだし、どうにもできなくてそのままである。そろそろ私、手汗がやばいんではなかろうか。


「けっこう時間かかる?」


「そうだなぁ。多分、窓口がひとつだから、登録とか買取とか発注とかがごちゃ混ぜになっているのかも」


「なるほど。ここは、お店はある?」


「お店? ああ、ギルド内ショップか。あっちにあるよ。先にそっちを見てみようか」


 お、大分意思の疎通が図れてきているのではなかろうか? これは大事な一歩。大事である。ついでにお店を見るのも大事。


「ギルド員になってなくても、買える?」


「ああ。誰にでも買えるようになっているはずだけど、今はちょっと立て込んでいるかもな」


 何か含みのある言い方をされたような気もしなくもないけど、ここに来るまでお店に寄ったりもせずにまっすぐ来たからお店を見るのは実はちょこっと楽しみなのである。

 木製の棚の上に一応種類ごとに置いてあると思しき薬品類は、品物が少ない。分かるほどに少ない。


「ポーションがこれだな。マーヤが使ってくれたものとは雲泥の差があるけど」


「そ、そう?」


 メガネに集中をして、スキルの発動を確認。《鑑定》

 スキルを発動した時に聞こえる起動音が聞こえて、私の目の前に透明なプレートに描かれた鑑定結果が表示される。


《ポーション Lv.1 低級ポーション。小さな傷は治る。標準市場価格 100ルーテル》


 ルーテルというのが、この世界の通貨単位のようだ。数字はなんとなく読み取れる。読み取れるんだけど、これって。


「アルさん」


「何?」


「これ、500ルーテルって書いてありますか?」


「あってるよ。今ポーションがすごく高騰しているんだ」


 ますますきな臭い。ここに来る前にアルさんがいろいろ作れるのは黙っておいた方がいいと言ってた件にも何かあるのかな。そして多分、私が作るポーションはこれより圧倒的に品質が高いんだけど……材料の品質を落とせば少しは誤魔化せるかなぁ。

 むむむ、と考え込んでしまった私の、眉間の間に寄った皺をアルさんがこつんと指でつついた。え? 何?


「ウル姉がよく言っているんだけど、女の子は皺を作らない方がいいって」


 いや、そうかもしれないんだけど。アルさんよ。直球がすぎる。


「しわ、寄ってました?」


「うん」


 素直か! まぁ、でもちょっとだけど、ほんのちょびっとだけだけど、うまく話せるようになってきている気はする。気だけかもしれないけど。

 しかし、これは本当にちょっと考えないといけないかもしれない。薬草をどこで調達してくるのかもだし、この感じからすると蒸留水とかもギルドで買うよりは自分で作った方が安くすむはずだ。


「ありがとうございます、アルさん。そろそろ列に行きましょう。今日中に終わらなくなっちゃう」


「! うん。そうだね」


 私が突然すらすら話し始めたので、アルさんはびっくりしたみたいだった。うん。まぁ、私もびっくりした。こんなにうまく話せるとは。引きこもる前みたいだなー。

 それから、列に並んでアルさんに通貨の形を教えてもらった。やっぱり紙幣とかはなくて、貨幣のみ流通しているみたい。うん。ファンタジー。

 アルさんが持っている中で一番こまかいお金は10ルーテル銅貨だった。100ルーテル銀貨と1000ルーテル金貨も。お金持ち、なのかな? とりあえず基準がよく分からないから、帰り道は食べ物屋さんか何かに寄ってもらって、私の中の貨幣価値とのすり合わせをしようと思います。はい。


「はい、次の方」


 受付のお姉さんが呼んでくれて、私とアルさんはいっしょに窓口に向かった。

 アルさんには慣れてきたけど、全然知らない人相手にはやっぱり緊張する。


「これはこれは《勇者》様」


 受付のお姉さんの興味は私ではなくアルさんへ向かった。有名人なんだ。


「今日はポーションの購入じゃなくて、彼女の付き添い。錬金術ギルドへ登録したいんだって」


「あら、そうなんですね。こんにちは、お嬢さん」


「こここここ、こんにちは」


「かわいらしい方ね。何が作れるのかしら?」


「ぽぽぽぽ、ポーションなら、作れます!」


 思わず声の音量を間違えてしまった。うひー恥ずかしいー。

 何か周りにいる人の視線が一気に集中してきている気がする。本当に恥ずかしい。


「まあ! なら、ちょっとこちらへ。すいませーん! 受付誰か変わってちょうだいな!」


 背後で忙しなく動いている別の職員さんを呼びつけて、受付のお姉さんは私たちをちょいちょいと手招きする。


「ギルドへの加入試験があるの。こっちの部屋でやるから来てちょうだい。《勇者》様は……まぁ、付いて来てもいいわ」


「ありがとう。ハンナ」


「あら、珍しい。わたしたちにお礼なんて言ったこともないのに」


 すごく刺々しい応酬が私を挟んで行われている気がする。私を挟まないで直接やって!

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