第26話 本屋
休みの日、俺と藤咲は本屋にいた。
集まった場所は、学校近辺よりも少し都会。そこには、専門書から俗な雑誌まで幅広い本を取りそろえる有名な本屋のチェーン店がある。
俺と藤咲は、きょろきょろ辺りを見渡しながら歩いていた。
「改めて全コーナー確認しようとすると、結構大変だね。これほどたくさん本があると、逆に難しいかも。どれから見て行けばいいのかわからない」
端から端まで、数十メートルくらいありそうだ。
「そうだね……。ねえ、ここに来たことある?」
「俺は何回かあるよ。参考書とか料理本を買うときとかに重宝してる。やっぱり、他と比べて品ぞろえがいいからじっくり選べる」
「そっか、大楠君、料理するんだもんね」
「今の時代、ネットで調べるのが一番早いんだろうけど、うち、タブレットもプリンタもないから、本が一番便利なんだよね」
そんなことを話しながら、本棚の間を抜けていく。
俺は、何でもないようなふりをしながらも緊張していた。
女子と二人きりで休みの日に会う。中学時代は、ほぼぼっちだった俺からすると超ハードモードだった。それでも、変な感じにならないのは、図書委員のときにたくさん会話を交わしていたおかげだろう。
藤咲の私服姿は可愛かった。セミロングのビスチェ風ワンピースを身にまとっている。水色と白のコントラストが、藤咲にはよく似あっていた。
そんなこと、恥ずかしくて言えないが。
「あ、そうそう。ついでにお願いしたいことがあったの」
藤咲は、何かを見つけて、ぱたぱたと小走りになった。
追いつくと、そこは参考書・問題集のコーナー。参考書だけでも、100種類くらいありそうなレベルの品ぞろえだった。
「ねえ、大楠君のおすすめ教えてよ」
「俺の? なんで?」
「いつも小テスト満点だって言ってたでしょ? 普段、どういうの選んで勉強してるか参考にしたい。ちなみに、数学」
「数学苦手?」
「苦手ってほどでもないけど、自信はないかも」
「そうだなぁ……」
俺が使っているものは2種類くらいしかない。おおむね学校指定の教科書と問題集で足りるので、補助にしか使ってない。
それでも、あえて選ぶとすれば、これだろうか。
「『総合数学 実践編』? ちょっと難しそうなやつだね」
「この問題集は、各単元ごとにおさえておくべきパターンを全て網羅してくれるから、一度やっておくとびっくりするくらい解けるようになるよ」
「数学は解き方のパターン覚えるの大事だもんね。じゃあ、これ買ってみようかな」
「逆に、藤咲のおすすめある? 特に英語」
「英語かぁ。有名どころになっちゃうけど、afforestかな。あ、これだ」
「実は、まだそれ買ってないんだよな。俺も買っとくわ」
「有名なだけあって、すごくわかりやすいよ。おすすめ」
そんなこんなで、お互いに自分の参考書を買った。鞄の中にしまったあと、改めてどうするかを相談する。
「もしかしたら、俺たちが買ったやつを図書室に置くってのもありなのかもね。あんまりテンションは上がらないけどさ」
「参考書を借りるためにわざわざ図書室に来る人も少ないかもしれないしね」
「ちょっと面白そうなの置いてみたいよな」
「うちの学校になくて、許可もらえそうで、面白そうなもの……」
簡単に思いつけば苦労はしない。ひとまず、端から端まで見て回ることにした。
本当に広い。見渡す限り、本、本、本。人も多く、あちこちに立ち読みしている人がいる。店員自体も熱心なのか、ところどころにポップのついたコーナーが設置されていた。
「ねえ、たとえば、これとかどう?」
藤咲が指さしたのは、クイズ本だった。なぞなぞのようなものじゃなくて、雑学系だ。パラパラっと見ただけでもそこそこ面白そうだった。
「いいんじゃないか? 勉強にもなると言えば通用しそう」
「ここらへんにあるやつ全部似たような感じだね」
「最近、テレビ番組でガチのクイズ勝負やってるやつがあるから、その影響かな。めちゃめちゃ種類あるね。提案できるように、出版社とタイトル、全部メモってこう」
クイズの本は、図書室にあった覚えがない。あとで、かぶってないか調べてみるが、おそらく大丈夫だろう。
「うちの学校って、クイ研的なものあったっけ?」
「なかったと思う。少なくともわたしは聞いたことがないな」
であれば、なおのことかぶらないだろう。
そのとき、藤咲が何かを思いついたのか、ニヤッと笑った。
「ね、せっかくだし、問題出してもいい?」
「お、いいね」
藤咲が、近くにあった本を手に取る。それから、ぱらぱらとページをめくって、途中で手を止めた。
「問題。カバの汗は何色でしょうか? 1、黄色 2、黒 3、透明 4、赤」
「赤。これは知ってる」
「あ、ずるい! 正解……」
今度は俺が出題しようと思って別のクイズ本を手に取った。
「じゃあ、俺からの問題。パンダが初めて来日したのは何年でしょう。1、1964年 2、1972年、3、1974年 4、1980年」
「生まれる前だからよくわかんないな……。でも、東京五輪の時と考えて、1!」
「残念。1972年でした。日中の国交が回復したタイミングだね」
「あ、そっか……。考えればわかったかも」
「これで俺の一勝だな」
「もう! 勝手に勝負にしないでよ。負けたくなくなっちゃうじゃない」
俺も負けず嫌いだし、藤咲も同じだった。クイズを出しっ合っているうちに白熱してしまい、気づいたら一時間以上たってしまっていた。
でも、楽しかった。こういうのもたまには悪くないと思った。
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