第22話 図書委員

 齋藤と進藤は、同じ中学だったらしい。同じ高校を目指していたわけではないけれど、気づいたら同じ学校になっていたという。


 ウマが合ったのか、俺たちはすぐに仲良くなった。


「おまえは、ゲームあんまうまくねえな」


 なんとなく、二人がやっているゲームを買って、なんとなく一緒に遊んでいると、齋藤からそう言われた。


 事実だと思う。そもそも、小さいころからゲームなんてあまりやってこなかった。小学生のときは、家に帰るや即勉強をしていた。睡眠時間が重要と指導されていたから、10時くらいになったら必ずベッドに入っていた。


 だからだろうか。ゲームの勘をつかむのに、大分時間がかかってしまった。


「ゲームって、やっぱ奥が深いんだな」

「そりゃそうだ。格ゲーであれば、1フレームの攻防。レーシングゲーであれば、細かな操作テクニック。脳みそをフルに回転させないとできないことは多いぞ」

「確かになぁ」


 知らなかった世界だった。他のやつらが夢中になるわけだ。小学生のころは、ゲームばかりしているやつをバカにしていたけど、今ならば気持ちがわかる。

 楽しいという気持ちは重要だ。人間は感情で生きている。俺の好きな作家も言っていた。人間はA10神経系を満たすために生きている。金も、恋愛も、勝負事も、心を満たすために存在している。


「ところでさぁ」


 齋藤が、俺と進藤の顔を見て言う。


「そろそろ委員決めるんだってさ。どうするか決めた?」

「それ、必須?」


 進藤の言葉に俺はうなずく。


「担任が言ってたよ。半期のどっちかで、なにかやらなくちゃいけないんだって」

「面倒だな」


 二人の顔には、ゲーム以外に興味がないと書かれていた。


「面倒くさそうなのは、クラス委員とか、図書委員とか。できれば、一年に一日だけ頑張ればいい奴にしたいな。体育委員とか」

「あれって、準備とか必要なかったっけ?」

「そういや、そうかも。やっぱなし」


 ちなみに、中学時代、俺は生活委員というものに就いていた。これも、ほとんどやることはない。たまに委員会があるので、それに出席するだけだった。


「まあ、なれるとも限らないし、当日のノリでいいか」


 俺と進藤がうなずく。今の段階で考えていても仕方がない。





 委員決めは、担任教師の主導で行われた。


 種類は、中学時代とほぼ相違ない。基本的に、学校における業務なんてほぼ同じだ。

 だから、クラスメイトたちも、どれが楽そうで、どれが大変そうかわかっている。

 人気があったのは、美化委員と生活委員。どちらもたまに昼休みがつぶれるくらいで、大した仕事がない。次に人気があったのが、放送委員、文化委員、体育委員。これらは楽というよりも、楽しそうだから、というのが理由みたいだ。


 俺と齋藤と進藤は、そろって美化委員に立候補した。


「定員より多い候補の委員は、じゃんけんで決めること」


 担任の指示で集まり、一斉にじゃんけんをする。悲しいことに、俺と齋藤は負けてしまった。


「残念だったな」


 進藤の勝ち誇った顔に、俺たちは、歯噛みして悔しがった。

 結局、齋藤は選挙管理委員、俺は図書委員ということに決まった。俺が図書委員になってしまったのは、最後までじゃんけんに負けてしまったからだ。ついていない。


 どうやら、図書委員は仕事が多いようだ。

 毎週一回は図書室に縛り付けられることになる。仕事内容は、主にカウンター業務と本の整理らしい。小説は好きだが、図書室にずっといたいとは微塵も思わない。


 委員が決まって、三日後に早速集まりがあった。

 各クラスから1人ずつ。3学年×4クラスなので、計12人も集まった。こんなに必要あるのかと文句を言いたい気持ちはあったが、その分仕事が楽になるかもしれないと思うとあまり言うことはできなかった。


「今から、仕事内容を説明するぞ」


 司書のおばさんがそう言った。たぶん、年齢は30後半くらいだろう。


 内容は主に3つだ。

 1つ目は、やはりカウンター業務。図書の貸し借りを受け付ける仕事だ。

 2つ目は、本の整理。このなかには、本のレイアウトを決めたり、期限を過ぎても返ってこない本の返却依頼も含んでいる。

 3つ目は、新規購入書籍に関わる業務。どのような本を調達するかを決めたり、入手した資料を登録したうえでシール・ブッカーをつけたりする。


 基本的には、月~金の間に自分の担当する曜日を決め、その日に1つ目と2つ目の業務を実行する。3つ目は、一か月に一度の図書委員集会で決めるらしい。


「というわけで、早速、どの曜日にするか決めてくれるか?」


 司書に言われるがまま、図書委員同士で話し合う。上級生が主体となってまとめてくれて、各々の部活に支障が出ないような形で曜日が決められた。ちなみに俺は、科学部という得体のしれない部活だったので、どの曜日でも構わないと伝えておいた。


 最終的に、俺の担当は火曜日となった。12人いるので、各曜日ごとに2人か3人となる。火曜日は、たまたま2人だけの曜日だった。

 もう一人の委員は女子だった。サイドを三つ編みにした髪型。大人しそうな風貌。彼女は、決まるや否やすぐに俺に話しかけてきた。


「これから、よろしくね」


 俺も答える。


「こちらこそ」


 可愛い子だなと思った。運がないと思っていたけれど、案外ついていたかもしれない。


 その女子――藤咲詩織は、柔らかい笑みを浮かべて、こちらを見ていた。

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