やま鯨 (漫画用プロットTwitterサルベージ ※ま※京

霖露が偲に怖い話をねだる。


ある引っ越して間もない男のはなし。

キノコ狩りをしに無断で入った山道。しばらく歩くと階段があり、山の頂上まで向かうが登れど登れど辿り着かない。六時の薄明かるい時間からもう昼。仕方なく降りようと振り返ると黒い大きな固まり。


ボックスカーくらいの大きさで、黒く体毛がある。熊が固まっているのかと思うが、一塊の様子。男はそれが何か分からないが、いなくなるまで待つと駆け降りる。不思議なことに、下りに関してはまったく時間はかからなかった。大体自分が登り始めたところまで来ると階段の脇を抜けた。


山道、畑のちょっとした獣道へと戻ると安堵し、足を緩めた。すると、異様な気配が背中から漂い、金縛りにあった。目の前の出口と、言い知れぬ恐怖に感情がない交ぜになっていると、近くで銃声が聞こえた。すると、体が動くようになり後ろを振り返ろうとした。そこで出口から声が聞こえた。


声をかけたのは目の前の畑の手入れをしに来た農家の人。男の後ろを見ながら「振り向くな」という。言われる通り、振り向かず農家の人のところまで行くと、その足で役場へつれていかれて農家の人、山の所有者と役場の人間にこっぴどく説教されたそうだ。


「お話はこれでおしまい?」

「まだあるよ」

男はその日あったことを日記に記すのが日課だったようで、事細かに覚えていることを書いていたそうだ。そして気がついた。キノコ狩りなのにキノコを採っていない。思い返せば帰り道。階段の脇にキノコが沢山生えていた。

怒られたのは見つかったからと思い、今度は見付からないよう昨日より早くに出掛けたそうだ。


「それで?」

「メモが落ちてたんだって」

男の日記はキノコ狩りで止まっている。翌日も行くという予定を残して消息を断った。

メモにはこう記されている。


表「やまくじら」 裏「くじらじゃない」



余談


あひるさんの近所の神社は、鳥居のある参道にワイヤーメッシュが掛けられており、出入りができない。地域柄、猪や鹿、熊も出る地域なので致し方ない。

この神社、祀りがあると参道からではなく、参道の脇に続く山道を通って参道に合流する。それなりの山道で、前日雨が降るとぬかるむ。


登るものは殆どいないが、登った先には開けた頂上とポツンと祠のような社がひとつ。社務所もない、人の手は祀りがあるときにだけ入れられる。

どんなに明るい日であろうと薄暗いそこは、何が祀られているのか?

そんな感じの話でした。


あと、題名の「やまくじら」は確か「いのしし」のことだったと思います。前に読んだ本か何かの記憶です。



備考として(偲談)


地域の猟師が新参の男の有り金を狙って襲った説もある。


この話は新参の人間にはしない話。


唯一佐藤のじいさんは若い時分山に入り、振り返り生きて帰ってきた。今は猟師をしている。


一見して山の上に社があるようには見えない。


一様に山へ登るものは手引きした者がいるという。





「どうだった?」

「おもしろかったー」

?」

「んー……!」


ドンッ


「お客さんかなぁ?」

「稿介かな?」

「私出てくる!」


玄関に先に行く霖露。ガラス戸の先に暗い大きな影。


「今日はたのしかったー!やっぱお泊まりやめとくね!」

「わかった。じゃ、また」

「うん!またね」



おしまい。

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