第3話 そうでない相手

「引き際はよかったみたいなことは言われました」


会社の近くの公園で、昼に太極拳をしているおじさんを目にしながら私は先輩の坂井さんにそう言った。


「ふーん」


猫背の私とは違って、坂井さんはオフィスでも公園のベンチでもきれいな姿勢を保てる人だ。


「その慶一郎けいいちろうくんという人は、松浦まつうらさんの中ではどういう位置付けなの?」


坂井さんは懐疑的な顔をしながらコンビニのおにぎりのオムそば味を食べている。


いつも変わり種を選びがちなので、無難な味は好きではないのかなと思う。


「元彼の友達で、週一回は会う程度の関係だったんですけど・・・」


高層ビルの上の、くすんだ空を見上げながらそう言う私に、坂井さんはけっこう頻度高いわねと苦笑した。


「元彼の瑛士えいじは大学の頃から夢に生きる人という感じで、ふらふらして簡単に捕まらなかったんです」


それを聞くと坂井さんは彼の代わりに友達と会っていたのかというので、まあそうなりますねと返した。


「慶一郎は逆に現実的で、忙しくてもリスクに見合うリターンがあればいつでも来ると言ってます」


それはどうかな~と坂井さんが首をかしげるので分からないことだらけなんですと私も首を捻った。


「今まで慶一郎の選ぶ人ってどちらかというと坂井さんみたいに気品のある人だったんです」


「私みたいな?」


「はい。あと色気たっぷり」


坂井さんはふむふむと腕を組むと、それが急に松浦さんみたいに型破りなタイプと付き合うことにしたと呟いた。


「正直残りの人生慶一郎と一緒にいるっていうのは想像できないんですよね」


「いや、案外適してないと思う人の方が長続きしたりするんじゃない?」


どうですかね~と言いながらお昼のゴミをまとめると、これは一種の賭けだなと思った。


私の推理が正しければ、合理的な行動を取る慶一郎のことなので、何かを目論んで私と付き合おうなどと口にしたのだろう。


試しに週末二人でどこかに行かないかと慶一郎にLIMEしてみた。


しばらくは彼の罠にはまったフリをしてみることにする。


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