-34-「こんなことをしてる場合か、八幡君。」
銭湯。
水本君は、男としての矜持を優先して男湯に入っていった。
八幡
「ま、いいんじゃないすか。プライドある内が華っすねぇ。」
木島
「そうか。しかし、これでは話し合いが……。」
八幡
「ま、いいんじゃないすか。水本がまともな案を出せるとも思えないっすし。」
木島
「そ、そんなこと言っちゃダメだぞ。
……。」
しかし、友達と銭湯なんて行ったことがない。
真っ先に脱ぐのは、なんとなく気恥ずかしい。八幡君が脱ぐのを待とう。
八幡
「……リーダー、もしかして恥ずかしいんすかぁ?」
ギクリ。
八幡
「いい歳して、なにが恥ずかしいんすかぁ。あ、もしかしてリーダーはまだ毛の1本も生えてないとか。」
木島
「し、失敬な!人並みの成長はしているつもりだ!
い、いいから早く脱ぎたまえ。重役は後からって相場が決まっておるのだ。」
八幡
「やらしー。」
八幡君はそう言って、なんのためらいもなく裸になっていく。
滅多に外へ出ないからか、肌が白い。日焼けが全くない。
八幡
「ほら、脱ぎやしたよ。見惚れちゃうでしょ。」
見惚れはしない。
ただ、八幡君の裸体は……私に似て貧相だった。
木島
「八幡君……君は鏡のようだ。」
八幡
「あぁ、お互い貧乳っすもんね。なぁに、まだ育ち盛りっす。それに無いなら無いで困りやしませんぜ。
さ、リーダー。ストリップっす。」
八幡君は腕を組み、私の脱ぐ姿を堪能しようとしている。
その視線に耐えながら、私は、シャツ、ズボン、靴下と脱いでいくが……。
い、嫌だな。恥ずかしいな。なんだか変態じみてるな。
八幡
「なにちんたらしてんすか。ほれ。」
八幡君はいきなり私の下着に手をかけ、一気に下ろした!
木島
「わ、なにをする!小学生でもあるまいし!」
八幡
「リーダー、ここは脱いで身体を清めるとこでっせ。
ほほぉ、リーダーはこんな感じっすか。私とあんまり変わんないっすね。あ、でもなんかいい匂いする。リーダー、ここにもリンスしてんすか?」
木島
「よ、よせ!まじまじと見るな!レビューするな!」
八幡
「なはは、リーダーと私の仲っす。毛の一本まで知り合ってもバチ当たんないっすよ。」
八幡君は飄々として風呂場へ行ってしまった。
残された私は、ふと鏡を見た。
紅潮してしまっている。
こんなことしている場合ではないというのに、なにをしてるんだ八幡君は。
なに一丁前に照れてるんだ私は。
なんだかバカバカしくなり、私はさっさと身包みを脱いで風呂場へ。
いつも通り身体を洗って、湯船に向かった。
既にそこには八幡君がいた。他の客はいない。時間帯も時間帯だからか。
八幡
「いらっしゃいやせ。
泳げますな、こんだけ人いないと。」
私は静かに湯船に入り、八幡君の横に座った。
少し熱い湯が、心身に染み渡る。
気持ちいい。
あぁ。温泉っていいな。
心底からのんびりできる。
八幡
「にひひ、リーダー。ようやく眉間のしわ取れましたぁ?」
木島
「えっ、眉間のしわ?」
八幡
「うっす。リーダー、旦那が倒れてからずっと難しい顔してやした。
ダメっすよ、ダメダメ。窮地の時こそ力を抜かなくちゃ。視野が狭まって、大事なものを見落としちゃいやすぜ。」
……八幡君の言う通りだ。
私は、焦っていたんだ。
新しいOpenerを、しかも頼れる大人のOpenerを見つけて……その人が、明日にも死んでしまうとなったら、焦りも出てくる。
それに、伊月君には、八幡君や水本君と同じ……『あのデータ』が表示されていたから。
木島
「……絶対に失うわけにはいかないんだ、八幡君。どうしても、力が入ってしまうんだよ。
だから、八幡君の力を借りたい。今の私には、なにも見えないんだ。」
八幡君は、彼方を見ている。
なにを考えているんだろう。
ただ、八幡君がそうしている姿は、なぜか頼もしい。
八幡君なら、なにかを見つけ出してくれるって、思えるんだ。
八幡
「……ま、リーダー。とりあえず情報くださいよ。これ、写真っす。」
八幡君は、パウチされた写真を渡してきた。
私は早速、データリストを参照する。
木島
「……七人ミサキの主は、やはり洗脳のシールを持っている。
この時の居場所は、七人ミサキから……かなり離れているな。3km圏内にはいるが、はて。」
八幡
「ふんふん。」
木島
「七人ミサキの主は……男性。おそらく七人ミサキの怪談に乗じただけの犯行だ。
そして、このOpenerは……恨みが強いな。いや、羨望といったところか。なにかを欲してこんなことをしているように見える。」
八幡
「ほうほう。」
木島
「……このOpenerの犯行。なんというか、到底正気に思えないな。
犯人は、気が触れているというか……生きている心地がない、まるでゲームをしているかのような感覚でこれをしているようだぞ。」
八幡
「じゃあ、犯人は病院っすね。」
木島
「えっ。」
八幡
「ま、例えばの話っすけど。
うし、風呂上がって病院行きやしょう。」
八幡君は立ち上がり、湯船を大きく波立たせ、そのまま脱衣所の方へ消えていってしまった。
病院……なぜだ?
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