-30-「天啓」

俺は、草原にいた。



青い空と草原。一本だけ木が生えている。



その木の下に、見覚えのあるソファと、見覚えのあるジャージ女がいた。



女は、ソファで足を組み、俺を手招きした。



「こっちおいでよ。」



俺は意識も曖昧なまま、言われた通りに歩いていく。



「まぁ、座りなよ。」



ソファに座る。


柔らけぇ。



「あのさ、伊月君。語り手がぶっ倒れてどうすんの。」



なに? 語り手?



「君はこの物語を進める義務がある。しっかりしてくれよ。」



なにを……言ってんだ?



「仕方ない、語り手を代わらせておくよ。


今後もこういうこと、あるかもしれないが……極力無くしてくれよ。主人公を変えるってのは手間がかかるんだ。」



女は、草原に立ち、背伸びをした。



「ま、気張ってくれたまえ。


君は僕に選ばれたんだ。責務を果たしてもらわないとさ。」



……わけわからん。



わけわからんが、ここは心地いい。



俺は、ソファに深く腰掛けて、深呼吸を何度も繰り返した。



はぁ。



あいつら、大丈夫かな。

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