-28-「標的」
喫茶店。
もちろん、窓から離れた奥の席。
俺は頭を抱えながらアイスコーヒーを啜る。
八幡は俺の様子を楽しみながらアイス抹茶ラテを飲んでいた。
チクショウ。こいつ怖いわ。
ガキに怯えるとは俺らしくない。
だが、今回ばかりはガキだから怖い。
常識がねぇよ。エアガンとはいえ、マジで撃つ奴あるか。
八幡
「怖いっすか?」
伊月
「んふっ、怖くぬぁーいぞ。」
八幡
「にひひ、旦那ぁ。面白いっすねぇ。」
完全に遊ばれてる。チクショウ。
八幡は、抹茶ラテを置いて、頬杖をつく。
ポーチから、ゲームする時にしか使わないオレンジ色のフレームの眼鏡を取り出し、かけた。
八幡
「やっぱ旦那、イイ男っすねぇ。ナヨい水本とは大違いっす。」
伊月
「お褒めにあずかりどーも。こんな無精髭のくたびれたおっさんのどこがいいんだよ。」
八幡
「無精髭で、くたびれてて、おっさんなのがいいんすかねぇ。
いやなに、私も思春期なもんで。自分の趣向なんざよく分かってないんすよね。」
伊月
「あっそう。」
それにしても、俺を狙うってのは趣味悪いぞ。
俺、女に出会うたびに「寝てます?」とか、「疲れてませんか?」とか、鬱病患者に語りかけるかのような対応されるんだが。
変な奴だよ、本当。八幡ってなんなの。
八幡は、また笑った。
ただ、今回の笑いは、いつものいやらしい笑いじゃない。
まさに、喫茶店でのんびりしている時に相応しい、優しい微笑みだった。
八幡
「でもね、旦那。わりと本気な方だと思いますぜ。」
……JCに好かれてもな。
女である前に子どもだろ。
いや、なかなか厳しいな。
伊月
「あと10年は要るな。胸も寄越せ。」
八幡
「にひひ、でしょうなぁ。旦那は巨乳好きそうだ。それに、泣きボクロのある黒のキャミソールがお似合いのエロい姉ちゃんとか好きじゃありゃせんか?」
こいつ、銃召喚のシール以外にもなんか持ってんだろ。
想像して俺、めっちゃドキッとしたわ。
八幡
「あはは、旦那ぁ。分かりやすいっすねぇ、本当。
いやー、確かに私にゃそういうのは無理でさぁ。あ、顔だけは良いラインっしょ?」
……うむ。10年後は期待出来るかな。
眠たそうな二重のタレ目が、上手く転べばエロスの権化と化ける可能性がある。
伊月
「ふん。期待だけは込めといてやる。」
八幡
「にひひ、旦那は優しいっすな。
まー、待っててくだせぇ。私もぼちぼち頑張りやすぜ。それに、旦那の趣向もぼちぼち変えちゃいやすぜ。」
はは、まさか……。
……絶対無理と思わせないから怖いわ。
八幡は抹茶ラテをちょっと飲み、椅子に深く腰掛けた。
八幡
「ま、それはそれとして。さっさと抱いてくれやせんかね?」
伊月
「バカ。大バカ。誰がお前なんか抱くか。」
八幡
「いうて、抱かれたら普通にヤれるでしょ?それが男ってもんすよ。」
なんも言えない。
相手がバケモンじゃない限りは、脱がれたら脱ぎ返してしまうわ。
八幡
「悲しいサガっすけど、生物的に正しい反応っす。男は子種を次から次へと撒いていくのが仕事っすからね。
でも、いいっすよ。ヤってりゃ芽生えるもんもあるんじゃないんすかね。」
お前の貞操観念はどうなってんの。
少なからず、処女の考え方じゃねぇ。
伊月
「もっと身体を大事にしろよ。誰にでも言ってんじゃないだろうな、それ。」
八幡
「そりゃ聞き捨てならないっすね。私はビッチじゃないんすよ。
アタックの強めな処女ってだけっす。ういっす。」
伊月
「あっそ。それにしてもやだね。捕まるわ。」
八幡
「旦那ぁ、そんなの私が言わなきゃいいだけの話っすよ。」
あぁ言えばこう言う。
だんだん面倒になってきて、俺も適当言いまくりはじめた。
伊月
「一人でアソんでろよ。角っこ見て発情すんだろ。」
八幡
「旦那のならもっと発情すると思いますぜ。」
伊月
「水本でいいだろ。身体も清潔にしてやったから問題ねぇだろ。」
八幡
「あんな女男じゃあねぇ。それに大したモノ生えてなさそうっす。」
伊月
「んだよ。
あのな、お前が何と言おうと、俺はヤラねぇ。」
八幡
「なんすか、乙女の純情をなんだと思ってんすかね。
まぁなに、旦那はすぐオチますね。私の攻勢に耐えられるわきゃないんすわ。」
スケベ女。
この年頃の女ってみんなこうなのか。
俺はコーヒーを一気飲みする。
八幡もそれに合わせて抹茶ラテを飲み干した。
八幡
「行くんすね。」
伊月
「ん。」
八幡
「うっす。」
八幡は長い髪をたなびかせ、颯爽と店を出ていった。
当然ながら、俺が会計すんのね。
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