-24-「信頼」

相談所への帰り道。



既に街は街灯がつき始め、夜の訪れを感じさせる。



俺はポケットに手を突っ込み、斜め上をぼーっと見ながらちんたら歩く。


水本は俺の横に並んで歩いている。



水本の様子を見るに、行き道と明らかに変わったところがあった。



まず、すげぇ良い匂いがする。石鹸の爽やかな香りだ。


これでこそ、俺の家に住むに相応しい。



そして。


水本は、俺への距離が一歩近くなっていた。


つーか、俺の服の袖掴んでいる。手綱じゃないんだが。



物理的な近さってのは、心の近さだな。


水本の中では、ぐっと俺に近づいたと思える何かがあったんだろう。



そんで、俺はなんとなくその原因が分かる。



風呂だ。


風呂はいい。簡単に距離を近づけられる。


なんたって裸一貫、互いの隠し事すべて払って語り合う場だからな。



物理的なベールってのは、心のベールだな。



静寂が包む夜道。


水本は、ぽつりと静寂を破った。



水本

「……ありがとう、ね。伊月さん。」



伊月

「んぁ。感謝されるようなことしたか。」



水本

「……いじわる。」



水本は、俺の手を引っ張り、歩みを止めさせた。


目の前に立ち、背筋を伸ばす。


目を閉じ、深呼吸。


小さく頷き、目を開く。


そして、俺の目を真っ直ぐ見た。



……今は男か女かもよく分からん顔してるが。将来、こいつはモテんだろうな。


目に意志が宿る人間ってのは、どんなガキでも粋なもんだ。



水本

「Openersに入ってくれたこと。怖くしないで、優しくしてくれたこと。僕のこと、助けてくれたこと。お風呂にも連れてってくれたこと。


……ありがとう。僕、本当に……寂しくて。救われたんだよ。伊月さんに。」



伊月

「……あっそ。


じゃ、あとで借りを返してくれな。1億円な。」



水本

「え、そんなに!? 伊月さん、せっかく良い人に見えたのに台無しだよ!」



伊月

「俺が良い人なわけあるクァ。せいぜい俺の手先となって動くんだな、水本。ガハハ。」



水本

「酷いっ、伊月さん!悪い人だ!恥ずかしくないの!?」



伊月

「ナニもまともに洗えないお前に言われる筋合いはないなぁ?」



水本

「え、い、いや、だってヒリヒリするから!


ってなに言わせるの!」



水本と俺は、憎まれ口を叩きあいながら。


お互い笑いながら、帰路を歩いていった。



……なんだかな。


ちと、こういう茶番に幸せを感じてしまう。



ついでに、ちとイラつく。


どこにでもいるガキだ、水本は。ちと変な能力こそ持ってるが。


なのに、なんでこいつはその、『どこにでもいるガキ』になれなかったんだよ。



だが。


俺がいる限りは、こいつは『どこにでもいるガキ』に戻れるのかもしれない。


どこにでもいる、大した苦痛も懊悩もない、脳天気なガキに。



そうあってほしいと思うわ。



なぜなら。


こいつ、笑ってる方がお似合いだからな。

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