-23-「風呂」

夕方。


まだ人気もない公衆浴場に来たわけだ。



俺はさっさと脱いで、軽石と粗めのタオルを風呂場に持ち込んだ。



伊月

「おい、早く来い。」



水本は一丁前にパンツを脱ぐのに抵抗を感じていた。



水本

「は、恥ずかしいから、見ないでください。」



伊月

「んだよ、お前のナニは恥ずかしがるほどのもんなのかよ。」



水本

「そ、そういうの言っちゃダメなんですよ!」



伊月

「いいから早くしろ。風呂で裸にならないでどうすんだよ。」



水本はしばらく駄々をこねていたが、観念したのか、物陰に隠れてパンツを脱いできた。


小さい手で必死に前を隠している。


んな手で隠せる程度のナニの癖に、立派に恥ずかしがってんじゃねぇよ。



だが、多感な時期だ。言い過ぎるとセクハラとか言われちまう。



俺は椅子に座り、俺の前にも椅子を一つ置いた。



伊月

「ほれ、座れ。お前の2年分、この軽石とタオルで刮ぎ落としてやっから。」



水本

「い、痛そう、です。」



伊月

「ちったぁ我慢しろ。ほら座れ。」



水本

「……はい。」



水本は前に座る。


ちっこい背だ。汚れは思ったよりかはないが、新陳代謝はなはだしい年頃だ。擦ればごっそり削げるはずだぜ。


こいつは、よし。試しに軽石だ。



首筋に当て、ゆっくりと腰まですりおろす。


水本は痛がるが、気にしたもんじゃない。



するとどうだ、うわすっげぇ。ごっそり落ちたぞ!


未処置の所とこすった所、あからさまにツヤが違うわ。


いやぁ、やりがいあんな。



俺はまず水本の頭にシャンプーをぶっかけた。


いや、泡立たねぇのなんの。


だが、数を重ねりゃこんなのすぐだ。


3回くらい流してシャンプーかけてを繰り返したら、十分泡立つようになった。



次は身体だ。タオルにボディソープを染み込ませ、とにかく擦る。擦りまくる。



水本

「い、痛い、痛いよ! 伊月さん!」



伊月

「我慢しろ!男だろ!」



水本は、「男だろ」って言葉に弱い。


滲む涙の中、必死に歯を食いしばって耐えていた。



背中が終わり、肩、首、腕、腰。


次はケツだ。そんで足。



水本を立たせ、思い切り腰を掴み、ケツを刮ぎ落としていく。



水本

「や、や、やめてよ!恥ずかしいから!それに痛いよ!」



伊月

「黙ってろ。たかがケツだろがい。」



有無を言わさずに擦りまくる。


あっという間に仕事は終わり、足も削り終えた。



一旦、シャワーをかけて流す。


めっちゃ垢が流れていく。壮観だな、こいつは。



水本

「ヒリヒリする……。」



伊月

「生きてる証拠だ。


ほれ、次だ。」



俺は水本を180度回転させる。



水本

「うわっ、ちょっ、なにするの!」



水本は片手でナニを隠し、片手で俺の脳天にチョップをかましやがった。



伊月

「痛ぇな。」



水本

「前は自分で洗えるもん!」



伊月

「結構力いるんだぞ。」



水本

「出来るから!向こう向いててよ!」



伊月

「あっそ。ちゃんと皮剥いて中まで洗えよ。」



水本

「え。」



伊月

「んだよ。お前まさか、洗ってねぇとか。」



水本

「あ、洗えるよ!洗えるもん!」



水本は恥のあまりパニックになってか、余所余所しい敬語が完全に抜けていた。


こんだけ言っておけば、なんとかやるだろ。



俺はさっさと身体を洗い、湯船に浸かる。


うぉぉ。良い湯だぜ。



湯煙の中、水本を見守ってやる。


水本の背中はツヤッツヤ。いやぁ、俺、こういうの好きなんだよね。端的に言えば掃除好きなんだよな。



水本は、胸、腹と洗っていく。


あの感じじゃ汚れ落ちきってねぇな。もう一度洗わせんとだな。



で、股間にタオルを持ってって、いちいち身体を震わせとる。



水本

「痛っ……痛っ! 痛っ!」



伊月

「おーい、バカ。大バカ。そいつで擦る奴があるか。


手で洗えや。」



水本

「え……し、知ってたよ。」



こいつ、親からこういうの教えてもらってねぇのかな。


ま、微妙な時期だかんな。親も悩むか。



だが、俺にゃ知ったことじゃない。


保護者役はやってやるが、俺は親じゃねぇから。


当然のことを当然のように教えるわ。それが一番楽だからな。



やがて、水本は湯船にやってきた。


入ろうとする水本を制止する。



伊月

「お前、まだ鎖骨んとこが汚れてんな。もう一回全部やれ。」



水本

「えぇ? もう十分洗ったよ。」



伊月

「ダメだ。汚れがある以上、俺と同じ湯船に浸かろうだなど笑止千万。」



水本は渋々シャワーの前に戻り、身体を洗い直し始めた。削ぎ落としたての身体はどこかしこもヒリヒリするだろうよ。いちいち痙攣してやがる。



伊月

「おい。お前、荒く洗いすぎると傷ついて膿むかんな。」



水本はビクリと肩を震わせ、なんかチマチマと洗い始めた。



あーあ。なんで俺がガキに身体の洗い方まで指導せにゃならんのだ。



……だが。


保護者になるってのは、そういうことでもあるんだよな。


下世話だからどうって話じゃない。


むしろ、下世話なもんこそ、保護者が教えにゃならん。こいつばかりは、学校じゃ教えらんねぇところだかんな。



はぁ。


美人のエロい巨乳女にこういうこと教えてぇ。


下乳もよく洗え、とか言って。


ぐふふ。



楽しい妄想をしていると、水本は自信満々に近寄ってきた。相変わらず前を隠してるが。



水本

「カンペキだよっ。もう文句ないでしょっ。」



伊月

「ん。入ってよし。」



水本は小さくガッツポーズをして、湯船に浸かる。


めっちゃ痛がっとる。そりゃそうだ、あんだけ削ぎ落としたんだからな。ヒリヒリもするわ。



伊月

「いーかー、水本。しっかり首まで浸かれ。それが風呂の礼儀ってもんだ。」



水本

「そうなの? うんっ。」



2人は横並びになって、湯の癒しに身体を任せていた。



あぁ。温泉、最高だ。


今度、木島と八幡も連れて箱根でも行こうかね。



俺、その瞬間にハッとする。



なんでこいつらと旅に出ようと思い付いた。


こいつらはあくまで他人の子。


俺はあくまで一時預かりしてるだけ。



やべぇな。俺、マジで誘拐犯になっちまう。


そう、あくまでこいつらは他人の子。俺はそこまで踏み込む資格はない。



……だが。


正直、それもわりと楽しいのかもなぁと。


そう思っている自分は、いた。



まぁ。


前よりかは、こいつらに信頼寄せつつあるってことかもな。



そんなことを考えながら、ぼーっとしていた。



ふと、隣に動きを感じた。



目だけ動かす。



水本は、俺のナニをチラチラと見ていた。



……。



伊月

「興味あんの?」



水本は超ビックリして、水面を激しく叩いた。



水本

「な、なにがかな!?なんのことかな!?」



深くは追求しなかった。



俺、ニュースサイトかなんかで見たことあるわ。



この時期のガキって、同性の身体に興味持つんだと。


別にゲイだとかレズだとかってわけじゃない。


自分の身体との違いを知りたくなるから、なんだとよ。



自然だ。



自然だと思えたのは、知っていたからだ。



不自然だと思うこと。


あり得ないと思うこと。



そいつは全て、知識の欠如が原因なのかもしれないな。



なおもチラチラ見てくる水本を横目に、俺はしばらく湯船に浸かっていた。



ここ、すげぇ気持ちいい公衆浴場だ。


また来よう。うん。

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