-17-「古田」

月は息を潜め、数多の星々に輝きを譲る。


女子高生は、星空を眺めていた。



「星はこんなにたくさんあるのにな。月の光がすべて掻き消してしまう。


時に、大きな光は……小さくも美しい輝きさえも覆い尽くしてしまうんだ。」



八幡

「ポエムっすかぁ。」



流石に俺は八幡の喉をチョップして黙らせた。


やめろ。今はマジでそういうのやめろ。ちょっとの衝撃で爆発しかねないんだぞ。



伊月

「名前は?」



木島

「名前は、古田ふるた。17歳だな。」



古田と呼ばれた女子高生が答える前に、木島が答える。


古田は目を丸くし、そして優しく微笑んで拍手を送った。



古田

「なるほど。それが君の『シール』か。」



木島

「シール?」



古田

「その異能力のことだ。シールを開いた者をOpenerと言うんだ。


……まぁ、ネットで囁かれている程度のものだが。所詮は凡人らの考えたおとぎ話の設定に過ぎない。それに乗っからせてもらってるだけだ。」



木島

「ほほう……。」



伊月

「話がズレてんだよ。お前は黙って後ろにいろ。」



3人は後ろに陣取る。


俺は銃を持ち、構えた。



伊月

「すまんな。お前は殺しってのをやった。それなりの対応をさせてもらう。」



古田

「構わないさ。


それより、君たちはOpenerなんだよな?」



伊月

「そうだ。


お前の凶行を止めに来た。なぜこんなことをした。」



古田は、微笑んでるとも、悲しんでるとも捉えられない不思議な表情をした。



古田

「君たちに会うため、かな。」



伊月

「なに?」



古田

「私は独りぼっちでね。このシールを誰にも打ち明かせないでいた。


秘密ってのは、いつだって心苦しいんだ。それが大きなものほど。その生きづらさは、君たちも理解出来るだろう。」



木島

「分かるぞ。でも、こんなことまでしなくたっていいじゃないか。」



古田

「そうは思わないね、私は。」



古田はしゃがみこみ、また空を見上げた。


なにかを思い出しているようだった。



古田

「人をね、助けたんだ。車に轢かれそうな男を、風で吹き飛ばした。


次の日、私はその男に襲われて、監禁された。見世物としてマスコミに売るつもりだったらしい。」



古田

「ある時は、記者にしつこく追われた。


『インチキだと特集されたくなければ言うことを聞け』ってね。要は身体を売れってことだ。私は拒否して、嘘つきのレッテルを貼られた。」



古田

「ある時は、歩道橋からいきなり突き落とされた。


どう伝わったかは知らないが、私のシールが本当か確かめるためにやったイタズラだったと、同級生が自供した。」



こいつ、なかなかハードな人生送ってきたんだな。


3人も、痛いほど気持ちがわかるようで、完全に沈黙していた。



古田

「凡人は理解しようとしない。崩れかかった土台の上にいるくせに、その土台を一新することを許そうとはしないんだ。


私は嫌になったよ。そして、切に望んだ。『同じ仲間が欲しい』、『同じ悩みを共有できる仲間が欲しい』ってね。」



伊月

「……経緯は分かってやる。だが、結果は許されることじゃないだろ。」



古田

「じゃあ、どうすれば君たちに会えたんだ?」



古田の目に迷いはない。


後悔さえも。



古田

「月の尊大で横柄な光に負けず、光るしかないだろう。誰が見ても分かるような光を。


だから、私はこうして輝いてみせた。だから、君たちは私を見つけた。目標は達成したんだ。私に後悔はない。誰がなんと言おうとね。」



なんだかな。すげぇやりづらい。


だって、こいつの言い分は理解出来すぎてしまうから。



どうだ、考えてみろ。悩みってのは解決しない限り永遠に続くものだ。


だが、Openerであるという悩みは、とんでもなく巨大なくせに、まともに解決できやしない。


なぜなら、悩みを打ち明けられる人がいないからな。



教科書もなければ、カウンセラーもいない。


友達もなければ、家族もない。



余りに厳しいんだよな。Openerとしての人生って。



古田は立ち上がり、俺の方へ近づいてくる。


やがて、銃口5cm前まで迫ってきた。



古田

「会えてよかった。確かに手荒な行為だったが、意味はあった。


なに、安心していい。君たちと会えたんだから、もうこれ以上はやらなくていい。それに、警察では私の犯行を特定出来ないからね。」



そして、古田は俺に手を差し伸べる。



古田

「仲間に、なってほしい。


独りじゃないって、教えてほしい。悩みを全部、聞いてほしい。」



俺は。



俺は、拒めなかった。



俺だけじゃない。



後ろから、手が伸びてくる。


木島と、水本の手。


同じ悩みを持つからこそ、手を伸ばしたくなるんだろう。



しかし、八幡は大きく舌打ちをして、2人の手にしっぺをかました。


そして、ポケットに手を突っ込んで、俺の横に立った。不敵な笑みがより一層不敵になる。



八幡

「何言ってんだサイコパス。目的のためなら殺しもアリって頭わるわる。」



古田

「……へぇ?」



八幡

「私も銃愛好家だから銃で殺しまくって仲間増やすかなーってなぁ。アホかってんだよ。


何のための法だと思ってんの。」



古田

「凡人たちのための法だ。」



八幡

「バカ。一発芸覚えた凡人のくせに。」



完全に敵対の立場を取った八幡に、木島はおろおろと止めにかかる。



木島

「け、喧嘩は良くないぞ?


それに、古田にはちゃんと理由があったのだ。もちろん、やっちゃいけないことをしたんだけど、きっと悔い改めてくれるはずなのだ!」



八幡

「リーダー、そうは問屋が卸さんのですわな。


法に守られてる以上、法を守らにゃならんのです。ね、旦那。」



一理ある。


あぁ、クソ。どっちにも一理ある。



俺はこの銃をどうすりゃいいんだよ。


チクショウ。なんてのうのうと生きてきたんだ。主体性のなさがここに出てきちまったよ。

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