-18-「黒牙」

古田

「君は分かってくれるだろ。」



八幡

「旦那。悩むこたぁないんすよ。」



悩むわ。



だが、俺の立場は決まっていた。


ただ、この場で言いだすのが度胸いるだけだ。



正直なところ、法ってのは人間の精神であり集大成だ。そいつを否定するのはOpenerどうこう以前に人間であることの否定だろ。



殺しはしちゃならん。


大富豪から大貧民まで、凡人からOpenerまで、全員ダメだ。


権利で殺人権が得られてはならないように、才能で殺人権が得られてはならんのだ。


世の中、そう綺麗には出来ちゃいないが、遵守せにゃならんことなんだ。



なぜなら、法がなければ俺らはいつ殺されたっておかしくないからだ。


俺らは法を守るから、法に守られてんだよ。



しかし、言えない。


下手したら俺どころかガキどもも殺されるぞ。



どうする。


どうすんのよ、俺。



ちょっと固まった。


頭がフル回転して、数十秒経ったか。



で、なんだ。俺の悪い癖が出ちまった。



考えるの、面倒くせぇ。


思ったこと全部言っちまおう。



伊月

「あー、じゃあ正直に言っちまうけどな。俺は八幡の立場だぞ。


お前、殺される覚悟があって殺してきたんだろ。そいつは人間が作った法ってより、自然の掟みたいなもんだ。どうなったって知らねーぞ。」



古田

「殺される覚悟、ねぇ。


殺すなんてのは手段に過ぎない。君たちを照らす篝火になるためのね。」



伊月

「殺された方はそれが全てなんだよ。


自首してこい。罪を償えば、考えてやるよ。」



古田は、溜め息をついて数歩下がった。



あぁ。こいつ、やる気だ。



古田

「残念だ。でも、これをし続ければ仲間に出会えることはわかったから、十分だ。


じゃあ、もういいよ。君たちに用はない。去りたければ去るんだね。私に二度と関わらないでほしい。さもなければ、君たちもこうなるよ。」



伊月

「結構。おい、帰るぞ。」



木島

「で、でも!


古田君!寂しいんだよな!辛いんだよな!分かるよ!私たちは友達になれるはずだ!」



古田

「無理だな。


君たちも凡人と同じ、拒んでばかりだ。そんな奴らと友達になんかなれない。」



伊月

「ほっとけ、木島。」



八幡

「そうっすよ。理解者が集まらないのは、能力うんぬんより、あいつの性格がクソ陰キャだからなだけっす。


帰りやしょ。証拠は大体撮っといたっす。」



えっ。いつの間に撮ったんかい。


古田もそれを聞いて態度を一変させた。



古田

「聞き捨てならないな。


生きて帰すつもりだったが、そうなれば仕方ない。消えろ。」



突風が巻き起こる。


俺の拳銃は吹っ飛ばされ、ガキども3人は風に圧迫されて壁に押し付けられている。



やべぇ。最悪だ。


これ、殺される奴だ。


遺書も書いてないのに。



古田

「死ね。」



古田が手を振り下ろそうとした、その瞬間。



なにか、黒いものが駆け抜けていった。



途端、風が止む。



共に、断末魔が響いた。



俺は、なにが起きてるかも確認しないまま、とにかくガキどもの目を覆った。特に木島と水本。


案の定、八幡は俺の脇からすり抜け、断末魔の方へ歩いていってしまった。



八幡は、狂気の笑みを浮かべながら、拍手をもって現場を眺めていた。



見たくもないが、目がいってしまう。



古田は、黒い人型の何かに跨られ、首、顔、肩……あらゆるところを引き千切られていた。


血飛沫が舞い、断末魔は一層夜空を駆け巡る。



助けて、助けて、痛い、痛い。


さっきまで飄々としてた人間も、こうなってしまえば……。



どれほど、断末魔を聞いていただろうか。


いつの間にか、辺りは元の静寂を取り戻していた。



黒い人型は、その黒いベールを消し去っていた。腰から下が犬の下半身と同じ構造をし、半人半犬。


そいつは、原型を留めない肉片の上に立ち、俺の方をゆっくりと向いた。



血まみれだ。赤い肌なのかってくらいに血にまみれている。


眠たそうな眼で俺を見る。



「……おかげで仇が取れた。ありがとう。


また、会いにくる。」



そう言って、そいつは肉片を引きずりながら、闇の中へ消えていった。



伊月

「な……なんだぁ?」



八幡は興奮気味に俺の背に乗っかる。



八幡

「犬殺しが犬に殺されて、これほど理に適った、気分のいいオチはないっすよ、旦那ぁ!いやー、今夜はよく眠れますなぁ。へっへっへ。」



俺、こいつが怖いわ。



今日は寝れねぇ。晩飯も食えたもんじゃねぇ。

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