-15-「愛犬」

夕方。奴らはやはり来た。



水本は申し訳なさそうにもじもじしていた。



水本

「あの、朝はごめんなさい。僕、その、なんて言えばいいかわかんなくなっちゃって……。」



伊月

「いや、別に構わん。言いにくいことだったんだろ。俺は無理して聞こうとはしねぇよ。」



安心させようと、俺はそう言った。


だが、水本はなぜか少し落ち込んでいる様子だった。


……つーことは、なんだ。こう言ってほしかったんかね。



伊月

「だがまぁ、俺は大人だからよ。時にはお前のために勝手に何かするかもしれないな。


それは許せよ。こちとら、お前らがここにいる間、命を預かってる身なんでな。」



案の定だ。水本は目を輝かせ、俺の目をじっと見ながらうずうずし始めた。



水本

「か、勝手に、ですか? それは、ダメですよぉ。」



言動が一致しない。


こいつ、どうしても俺が勝手にやって水本の秘密を知ってしまった構図を作りたいようだな。



八幡はいつも通りにやけながら、俺の耳元で囁いた。



八幡

「期待に応えてやんなされ、旦那ぁ。毒を食らわば皿までってねぇ。」



毒なのか。水本の秘密は毒なのか。



溜め息をついていると、木島は「わぉ!」とカウンター下の黒い塊に駆け寄った。



木島

「イッヌ!イッヌではないか!


なんだ伊月君、水くさいじゃないかぁ。犬を飼うなら言ってくれればよかったのに。」



伊月

「飼うわけねぇだろ、そんな狂犬。


そいつ、ここから追い出そうとすると噛り付いてくるんだよ。チョベリバ。」



木島

「おぉーかわいい、よしよし。かわいい。」



おい、話を聞いてるのかアホ。



この犬を追い出すのを手伝わせようと考えていたが、こりゃダメだ。


木島に続いて、水本と八幡もその犬を取り囲み、可愛がり始めてしまった。



水本

「大人しい……。」



八幡

「Openers相談所、名誉抱き枕係だなぁ。」



勝手な役職が作られ、こいつの地位は定着しちまった。


おい。誰が飼わされると思ったんだコラ。



木島

「名前を決めるか!」



水本

「チロがいいなぁ。」



八幡

「ティコ。ティコ・ブラーエから名を取って、かっこいいっすな。」



木島

「インヌがいい!絶対いいぞ!」



八幡

「じゃあ名前を合体させますかぁ?


例えば、チロのチ、インヌのン、ティコのコで、」



伊月

「バカヤロウ。大バカヤロウ。


第一、飼わないってんだよ。勝手に入ってきたんだ。」



木島

「Openers議会で飼育が決定されたのだが……。」



おい、いつの間にそんな議会が開かれたのかよ。



八幡

「まぁ、諦めなすってくだせぇ、旦那ぁ。議会の決定は覆らんのですわ。


インヌでいいっすよ、リーダー。」



水本

「リーダーの付けた名前が一番のはずです!」



木島

「ふはは!リーダーって気分いいな!


では、貴様はこれからインヌだ!我が相談所のマスコット兼抱き枕としてその身を捧げたまえよ!」



インヌと名付けられた黒犬は、身体を伏せながら、尻尾をくるりと一回転させた。「お好きに」と言わんばかりだ。



木島はインヌを撫でながら、「あっ」と何かを思い出した。



木島

「次の犯行は今夜行われそうだぞ。実は帰り道、他の犯行現場に寄ってな。参照してみたのだ。


曰く、間違いなく今夜だ。場所は、近くの古びた倉庫の近くだな。」



伊月

「行くつもりかよ。」



木島はこっくりにっこり頷きやがった。


それに伴い、水本も、八幡も、ついでにずっと伏せていたインヌも立ち上がった。



木島

「行くぞ。さっさと捕まえて、お仕置きなのだ。」

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