-13-「推察」

俺の家。時刻は19時を回った。


ガキどもは未だにバーで麦茶を飲んでいる。



伊月

「あのさぁ、家の電話教えろ。電話かけるから。」



八幡

「身代金っすか?旦那もやりますねぇ。」



伊月

「違ぇわコラ。こんな時間までお前ら預かる身にもなれや。」



木島はポテチを食べながら首を振る。俺のポテチだろそれ、どうやって見つけた!



あぁ。そうだ。こいつの能力の前じゃ隠し事出来ねぇんだった。


いや、だからって勝手に食うってなんやねん。親の顔見たいんだが。



木島

「保護者はみんな分かってるぞ。


私はな、最近は拾ったおじさんと一緒だと言ってある。」



誰が拾ったおじさんだコラ。


つーか、すげぇ危険な言い回ししやがって、どうしてくれんだよ。お前ら、援助交際してるって勘違いされてっかんな。



そんな俺の焦りを察してか、八幡は嘲り笑う。



八幡

「エンコーって思われてるかもって?んー?旦那ぁ、隅に置けませんねぇ。」



伊月

「社会人の悲しき常識なんだよ。」



八幡

「んじゃー現実にしちゃいます?


私はハイエンドゲーパソで示談っすよぉ、旦那ぁ。生JCとナマナマ出来ますよぉ。」



伊月

「あんま大人からかってると痛い目見っからな。


なに、お前らなんか範疇外のさらに郊外だ。」



八幡はやれやれと首を振る。水本は頬を赤らめて俯き、木島はポテチに夢中である。


俺はさっさと話を進めるべく、木島のポテチを取り上げた。



伊月

「さっさと情報を並べろ。宵も更けちまうだろが。」



木島は物惜しそうに、指をひと舐めした。



木島

「ポテチ、おいしかったのに。


でも、優先すべきは情報共有だな。」



木島は、バーの壁面に取り付けられた黒板にどんどん列挙していく。つーか、黒板あったの気付かなかったわ。まぁまぁデカいのに



俺はそれらを一つ一つ吟味してみることにした。



八幡

「なにガン見してんすかねぇ。推理なんて立派なもん、旦那できんすかぁ?」



八幡のヤロウは半笑いで侮辱する。



バカめ。


俺はポーカー愛好家だ。心理には多少の心得あんだよ。



『殺害方法は十数回に及ぶ刃物での刺突』


複数回。木島が前に言った、犯人は臆病ってとこを加味するに……丹念にやっといたんだろうな。慎重派なんだろ。


当たり前だが、慎重派ってのは確実なことしか実行しない。


逆に言えば、慎重派がやることってのは、自分が「確実だ」と思い込んでるもんだ。


こいつが犬の死を確実と思うのに十数回の刺突が必要だったんだ。不慣れなんだろうよ。



『躊躇い傷あり』



これがまた不慣れなことを示している。そして、快楽による殺害ではないことも示される。



『死体処理は接触を介さず行われた』



……なに?


触れないで、あそこまで圧縮したってのか?



これに続いてデータが書かれていくが、ちょこちょこと理解しがたいことが書かれている。



『当時はそこで極短時間、乱気流が発生した』



『近くの猫避けが大きく変形した形跡あり』



『犯人の目的は殺害ではない』



ううーん?


やべ、わかんなくなってきた。



八幡

「にひひ。見えてきたぁ。」



八幡は目の前に手で輪っかを作り、双眼鏡のポーズをして黒板を見ていた。


え、なんか悔しいんだが。



伊月

「なにがわかった?言えるもんなら言ってみろコラ。」



八幡はカウンターに体育座りをして、くるくると回りながら答えた。



八幡

「犯人の能力は『局所的に大気圧を変化させる』ってとこっすね。乱気流や気圧変化による物の変形ってのはそれが原因すなぁ。


にひひ、この事件は警察にゃー解けないわな。パンピーにも無理だー。こりゃーOpenerに向けたメッセージだの。」



伊月

「め、メッセージだと?」



八幡

「そうっすねぇ、旦那ぁ。


この事件は異能力を前提として考えられるOpenerにしか分からない事件っす。やっぱこの造形物の作られ方がね、パンピーには分からんのですわ。」



確かに。触れた形跡がないってなら、指紋照合なんか以ての外、なんの手がかりも掴めない物的証拠となるのだろう。


一番ムカつくよな。物があるのに証拠が出てこないってのは。


だが、Openerとしての能力を込みにすれば理解が出来ると。俺はOpenerのくせに、パンピー脳だから能力込みとか考えられなかったわけか。チクショウ。



で、そのOpenerの能力は……大気圧操作。


おや、天気の子かな。



八幡

「まーこんなのはどうでもいいパズルっす。警察でさえ出来るままごとですわ。


Openersの仕事ってなれば、ねぇ?リーダー。」



木島はもう全く理解できていない面をしているが、促された意味は理解したようだった。



木島

「うむ。犯人はOpenerだ。Openerが相手せねば。


意図はなんだろうか。よく分からないので、じっくり聞かせてもらいたいところだぞ。」



伊月

「おい。バカヤロウ。


言いたいことは一つだ。危ねぇよ。」



木島はきょとんとした。


なんできょとんとしてられんだよ。相手は犬殺しだぞ。



木島

「え、もしもの時は八幡君と水本君が退治してくれるだろう?


あっ、そっかそっか。安心したまえ!伊月君は我々の同志なのだ、もちろん伊月君も防衛対象だ!なぁ、2人とも!」



八幡

「SP代はハイエンドゲーパソっすねぇ。」



水本

「あ、あの、僕、オムライスがいいですっ!」



やべぇ。俺、こいつらと心中させられるかも。


すまねぇ。この物語ももうじき終わりだ、とほほ。

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