-12-「緑光」
時刻は夕方17時を過ぎたところ。
事件現場の1つ、コンビニのある交差点に来た。最初に事件が起きた場所とのことだ。
時間帯的には帰宅ラッシュにあたるところだが、ここはあまり車が通らない。人通りも多くないな。
だが、決して人通りがないわけではない。ぽつぽつと帰宅する人々がいるし、コンビニにも最低1人は客がいるような感じだ。
俺におぶさってぐうたらしていた八幡は、地に足を下ろし、1つ背伸びして、へらへらしながら俺の脇腹を小突いた。
八幡
「旦那ぁ、どう考えますかねぇ?」
伊月
「その、旦那って呼び方はなんだ。気に入ったんか?」
八幡
「伊月ってなぁんか言いづらいんすね。旦那っつったら旦那ですぜ。
で、どうっすかぁ?」
伊月
「ふむ。ま、ここでなら犯行もしやすかろ。夕方でこれだ、深夜や早朝なんか余計に人がいないだろ。」
八幡
「いや、私にはどうとも。」
伊月
「なにがだ?」
八幡は、にぃっと笑う。
夕暮れの橙光が、八幡の表情に不気味な影を作り、余計に気味悪い。
八幡
「こいつぁ、小心者の茶番劇に見えるんすなぁ。」
伊月
「小心者の茶番劇?」
八幡
「うぬ。犯罪ってなぁ色々あると思うんすけど、例えば1つの分け方としてこういうのがあるんじゃねぇすかね。
『隠したい犯罪』と『見せびらかしたい犯罪』ってのがねぇ。」
見せびらかしたい犯罪、か。
伊月
「八幡的には、これはなにかを主張するためのメッセージだと思うのか。」
八幡
「うぬ。まぁ、憶測はこんなとこにしといて、リーダーが能力でもうちっと詳しくしちゃいやしょうぜ。」
木島は凛々しく頷いた。
ゆっくりと、足音一つ立てずに歩きながら、周辺を静かに見渡す。
よく見ると……彼女の瞳は完全に緑に変色し、周りには、仄かに輝く緑色の光の粒が揺蕩っていた。
八幡
「リーダー、広範囲にデータリスト見るとあぁなるんすよ。」
ははぁ。能力となんか因果あんのかね。
まぁしかし、その佇まいは、不思議と神秘的な雰囲気を感じるな。木島のくせに。
他2人は、そんな木島に見惚れていた。
水本
「リーダー……いつ見てもかっこいいですっ!」
八幡
「うーん、永遠にデータリスト見てればいいんに。良いインテリアになるだろなぁ。」
友達がいのない奴だな……。
おっと。念の為、周囲を見渡しておこう。
む、遠方から人が来るな。
俺は木島の肩を揺さぶり、捜査をやめさせる。
木島はいつものアホ面に戻り、腰をひねってストレッチしながら俺に忠告した。
木島
「あのだな、気遣ってくれて嬉しいけど、データリスト見てるんだから、いつ誰が来るかくらい分かってるぞ。ちゃんとやめるべき時は弁えているのだ。」
伊月
「おぉ、そうか。そういえばそうなるのか。すまんな。」
木島
「いやいや、気遣いは嬉しいのだ。謝ることはないぞ!」
伊月
「でも余計なことしたからな。すまん。」
木島
「やめーい!大人ってすぐ謝るのだな!
Openers規則その4を追加だ!謝罪は一度、感謝は毎度!はい!」
水本と八幡は律儀に繰り返す。
俺はぽけーっと見ていた。なんだ、Openers規則って。
八幡
「Openers規則についてお困りかねぇ?
我らが遵守するルールだよ、旦那ぁ。その1、蓼食う虫も好き好き。」
水本
「その2、Openersが世界を変える!です!」
木島
「その3、隠し事なんて贅沢は厳禁!
そしてその4、さんはい。」
伊月
「しゃ、謝罪は一度、感謝は毎度。」
ラーメン屋の標語みたいな言葉を言わされた。
だが、こいつらは満足したようだった。
……まぁ、ちと刺さる言葉ではある。
確かに……俺、いつから謝ってばっかになったんだっけなぁ。
俺たちは、夜が迫る街を歩いていく。
向かうはもちろん俺の家、兼Openers相談所。
いや、夜が迫ってんだから帰れよ、お前らは。
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