-11-「吟味」
三中が帰ってから、俺たちは昼飯にした。俺がチャーハン作ってやってな。
俺と八幡は普通にガツガツと食ってるんだが、木島と水本が一口も食べようとしない。
伊月
「食わんの?じゃあ食っちまうぞ。」
木島
「ダメなのだ。私のなのだ……。」
木島は食い意地だけはあった。逆に言えば、食い意地だけしかなく、食欲は一切ないようだ。
水本は素直にチャーハンを俺らに返して、げんなりと謝りの礼をした。
水本
「わんこ……僕、わんこ飼ってるから……。」
どうも、『もし自分の犬がこうなったらどうしよう』と考えてしまったようだ。全くに童心なもんだな。
まぁ、同情はしてやれる。犬好きにとっては心底恐怖するだろうし、辟易もするだろうし、腹わた煮え繰り返るような怒りを覚えるんだろう。
伊月
「よかったよ。お前がそう思ってんなら、お前はこの事件に関わる資格があるってこった。」
水本
「し、資格?」
伊月
「あぁ。お前は被害者の立場になれたんだ。被害者の無念や苦痛、恐怖や憤怒をその身に宿せた。だからこそ、この事件に熱意を持てるんだよ。
だろ?こんなことをした犯人、意地でも捕まえたくないか。」
するとどうだ。涙の溜まってた水本の目はみるみるうちに決意に漲り、俺の前で大きく頷いてみせたじゃないか。
水本
「うんっ。僕が捕まえてみせますっ。
絶対に許せない!」
伊月
「おう、いいね。男らしいじゃん。」
そう褒めたら、なんでか水本はカッと顔を赤らめて、俺に向き合った。
水本
「ぼ、僕が、男らしい、ですか!?」
伊月
「あ?まぁ、そう言ったつもりだが。」
水本
「そ、そですかぁ!僕、男らしい……!」
よく分からんが、どうも嬉しいところを突かれたようだった。
んで、ありがたいことに、水本の決意は、木島や八幡にも伝播していた。
木島
「いつまでも落ち込んではいられない、な。
私たちはOpenersだ。信頼を勝ち得るためにも、そして犯人に罪を償わせるためにも、絶対に生け捕りにしなくちゃだぞ。」
八幡
「撃っちゃえばいいんじゃないすかぁ?」
伊月
「バカヤロウお前、バカヤロウ。弾痕なんか残したら俺らが捕まるわ。」
八幡
「ははは。」
なに笑ってんだこいつ。
木島
「さて、伊月君。さっきの写真を見せてくれ。データリストを参照してみせよう。」
伊月
「やんならまず飯を食え。」
木島
「もぐもぐ。
よし、食べたので見せてくれ。」
こいつ、今飲み込んだのか?瞬く間に消えたが。カービィかよ。
まぁいい、ファイルを渡そう。
木島は1ページ、また1ページとめくっていく。
俺は気づいたことがある。木島が能力を使う時、わずかに瞳が緑に変色している気がする。
しばらくして木島は、「ふぅ」と一息つき、参照結果を述べた。
木島
「写真だと詳細までは分からないな。一次創作物じゃないと。」
なるほど。一次創作物の熊の置物を撮った写真は、二次創作物にあたる。そうなると、効果が薄れるんだな。へぇ。いいのか、そんなの人前で喋っちゃって。悪用されそう。
木島
「分かったのは、この作品がどう作られたか……あと、犯人の性格、くらいだな。」
伊月
「性格も分かるのか?」
木島
「うむ。創作物の造形や犯行の手口から参照されたデータだと思う。」
伊月
「お、思うって。
ちょっと聞きたいんだが、お前が見てるそのデータリスト、どこから参照されて来てるもんなんだよ。信頼出来るんだろうな?」
木島はぷんすこと怒った。
木島
「失礼だな!このデータリストが間違ったことを表示した試しは一度としてないのだ!
どこから参照されてるかは、わからーん。私の知恵の泉ではあるまいか?」
お前の知恵の泉だったら絶対信頼できないわ。
木島
「とにかく聞きたまえ。
我がalookupの能力曰く、この作品は『尋常じゃない圧力によって圧縮されて』作られた。犯人の性格は『臆病』といったところかな。
ふーむ、犯人が臆病?こんな事件を起こしておいて?ちょっとそれは、私も信じがたいなぁ。」
圧縮、か。
じゃあこの熊の置物は、骨を押し固めたってことだな。プレス機でも持ってんのかな。
八幡が、「へーい」と気力のない挙手をした。
八幡
「たぶんっすけどね。犯人は几帳面だと思うんすな。
この骨の置物には一切肉片らしきものがなくて、純白って感じ。犬の毛も混じってなくて、丁寧に捌いたんでしょな。」
伊月
「なるほど、確かに。となると、物的証拠は……。」
八幡は腕を組み、にひひと薄ら笑いを浮かべた。
八幡
「物的証拠のない事件を作るなんざぁね、旦那。こんな陰湿な事件起こす奴ごときにゃあ出来やしませんぜ。」
……こいつは薄気味悪い笑みばかり浮かべていて、なに考えてるかさっぱり分からん。
頭はキレるんだろうが、ネジの吹っ飛んだ発言も多々ある。
どこまで本気にすりゃいいのやら。
だが、一理ある。完全犯罪なんてのはそう簡単に出来るもんじゃないはずだ。
木島
「まずは現地を捜査しよう。なにかあるかもしれない!」
つーことで、現場に出ることにした。
なにかあるとも思えんが、行く価値はあるだろ。
なんたってOpener揃いだからな。なんか掘り返せるやもしれん。
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