-8-「始動」

翌朝。


日光の差し込まない地下のバーだ、時間感覚が狂うな。『AM 7:24』とスマホの画面に映ってんだから、たぶん朝だ。



奴らの自己紹介を聞き届けた後、俺はガキどもを総動員させて片付けを終え、ついでに俺の前の住居から物を持ち運ばせた。バイト代は1人2000円。労基に訴えられる安賃金だが、あいつらにとっては大金だったようで大喜びしていた。


おかげで快適なバー生活を始められた。流石にベッドとかは持ってこさせられなかったから、しばらくはソファで寝るしかあるまい。


しかし、バーのソファなだけあって良い奴なんだよな。寝心地は抜群だった。まぁ、ちと古びてはいるが。



歯を磨き、カウンターに座り、麦茶を飲む。


木島は麦茶が好きなようで、冷蔵庫の中には必ず作り置きの麦茶を用意するようにとの命令だ。


しかもなんだ、天然ミネラル麦茶のパックを必ず使えだの、熱湯を使えだの、粗熱取れたらパックを取り出して冷蔵庫に入れろだの。


何様だ、チクショウ。


だが、朝に飲む麦茶は美味かった。スッキリするな。



さて、次は仕事だ。


再就職、できないよな。警察にバレそう。


というか、警察は俺を狙ってんのかな。自意識過剰ってならそれまでなんだが。



とにかく、外に顔を出す仕事は危険だ。どうすっかな。



しばらく呆けながら麦茶を啜っていると、バーの入り口がノックされた。



木島

「いーづっきくーん!あーけーて!」



あぁ、奴らが来た。


…ん? 平日だよな、今日。なんであいつ、来てるんだ?



ドアを開けると、そこには木島だけがいた。



木島

「おはよう! 梅雨の時期はイヤだな、じめじめする。」



伊月

「お前、学校はどうした。」



木島

「む? 今日は気分じゃないのだ。」



伊月

「おいおいおい、なんだ気分って。お前はアホなんだから勉強しないとマズいだろ。」



木島

「無礼だぞ。」



木島はカウンター席に座り、俺の飲みかけの麦茶を一気に飲む。



木島

「ほう、上手に淹れられたな、偉いぞ!」



伊月

「そりゃどうも。で、お前は成績どうなんだよ。」



木島

「すこぶる良いぞ。なんたって答えは全部データリストになって見えるからな。」



伊月

「おまっ……セコい奴だな!」



木島

「セコくないぞ!」



木島は立ち上がり、俺の寝床たるソファに飛び込んだ。



木島

「頭が良いという能力を、上位層はフル活用してるのだ。ならば、データリストを参照するという能力を活用してなにが悪ーい。」



伊月

「話をすり替えようとするな。テストってのは頭の良さを測るもんだ。能力の有無を測るもんじゃない。」



木島

「手厳しいな、伊月君。


まぁ、能力を使わなくても私は学年の上位層だぞ。参ったか、崇め奉れ!」



伊月

「嘘だな。嘘。」



木島は「嘘じゃないぞ!」とぷんすこしながら、俺の枕に強くうずくまる。



木島

「それに、行っても面白くないのだ。クラスメイトや先生の色んなデータを見てると、悲しくなってくるのだよ。


学年2位の真面目な生徒は、大麻を吸っていた。生徒指導の先生は、学年一かわいいと言われる女生徒と、その……ワイセツな関係を持ってた。おっと、私ではないぞ? 実のところ、私は日本一かわいいからな。」



伊月

「言っとけ。


だが……まぁ、なんだ。お前にも色々あるんだな。」



木島

「うむ。あんまり人と関わりたくないぞ。見苦しいものばかりなので。」



そうか。そう言われると、俺は何も言えない。


異能力が原因で何かを諦めたり、遠ざかったりしなくちゃいけなかったことは、俺にもある。


特に病院はダメだ。俺の能力なら大体助けられるからな。調子乗りたくなるだろ。



伊月

「しかし、もったいないな。お前はアホだが、人当たりは良さそうじゃないか。友達もたくさんいるんだろ?」



木島は八幡を貧相だと言っていたが、人のこと言えない胸を張り、ドヤッと応えた。



木島

「あったーりまーえだっのクラッカー!


でも、そういう間柄が増えると、異能力を隠していくのが余計に大変だ。これがまた難しい。」



確かにな。


チクショウ。アホのくせに、共感できる話ばっかしやがる。俺までアホみたいじゃないか。



木島

「いいのだ、先週はちゃんと出席しているので。


それより、我らOpenersのブレインよ。知恵を貸したまえ!」



伊月

「知恵だぁ?」



木島

「そうだぁ?


Openerを認めさせるためにはどうすればいい? 急なのは危ないのだろう?」



伊月

「まぁ、そうだな。絶対に危ないだろう。」



俺はSPECというドラマやDTBというアニメを見て学んでいる。


異能力者は資源だ。各国や組織が俺たちを捉え、何かに利用としてるのだ!


おそらく。



木島

「危ないなら、私たちはどうすればいいのだろう?


八幡は昨日、Twitterでアカウントを開設したようだ。ほれ、このアカウント名だ。」



促されたものをスマホで検索してみる。


アカウント名は、『Openers広報部』。


プロフィール文は、『Openerって本当にいるらしいよ(・∀・)』



もうアウトだろ。



恐る恐る投稿を見てみる。


これは、固定ツイートのようだ。



『我々Openersは、Openerの地位向上のため広報を始めたよ(・∀・) #はじめてのツイート #Openerとつながりたい』



俺は気絶しかけていた。


この投稿には返信が何件も続いている……もうヤケだ、チクショウ!



『都市伝説で草』



『は? 都市伝説じゃないかもしれないだろ(・∀・)』



『ムキになんなって、寒いぞw』



『喧嘩売ってんの?殺すぞ(・∀・)』



『やってみろカス。超能力で居場所当ててみろ』



『お前死んだかんな。せいぜい震えて眠れゴミクズ(・∀・)』



『顔文字のレパートリーが少なすぎる -114514点』



伊月

「もう見てられん! どんだけバカなのこの子は……!」



号泣していると、木島が「バカじゃないぞ」と介入してきた。



木島

「八幡は学年1位だ。とっても才能があるのだよ。


八幡は『えんじょうしょーほー』だって言ってたぞ。よく分からないが。」



え、炎上商法?


いやいやいや、お前らOpenerを認めさせたいのに炎上から始めてどうすんだよ。


これは八幡に厳重注意せねばならん。



木島

「聞け、伊月君!


私も何かしたい! なにかいいアイデアはないのか!?」



功を焦るリーダー、木島。



伊月

「う、ううむ。」



そう言われても、パッと出てくるものじゃない。



こうなったら、考え直そう。



まずはOpenerたちを集めなくちゃダメだろ。数人で出ても揉み消されるだけだ。


Openerのパイプを作るには、どうすればいいか。



伊月

「……Openerのための相談所を、作るか。」



木島

「相談所?」



伊月

「あぁ。Opener絡みの悩みを相談できる場所だ。


そうすれば、他のOpenerたちにも会えるし、恩も売れる。どうだ?」



木島は「おぉ!」と拍手した。



木島

「凄いな!相談所か!Openerたちのお悩みを聞く!素敵だなぁ!私が真っ先にかかりたいな、それは!


よし、ならば決定だな!チラシを作ってバラまこう、Twitterでも宣伝しよう、ホームページなんかも作っちゃおうか!いやー夢が広がりんぐ。」



勝手に高まっている木島。


俺は反省した。こいつ、もしかしてイエスマンか。言ったことなんでもやってしまうタイプの子なのかもしれん。



いや、やっぱり困るんだが。俺の部屋に来るってことだろそれ。困るんだが。ねぇ。

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