-7-「事例」

木島

「じゃあ次は水本かな〜。」



と、次の自己紹介を誰にするかを決めようとしていた時。


木島はビクッと身体を震わせた。



木島

「事件が起きる。近いぞ!」



は? なに?



水本

「わわ、ちょっと待ってください!財布、財布!」



八幡

「ほれ、伊月。私をおぶって。」



俺にのしかかる八幡。え、もうわけわからんのだが。



言われるがまま、俺は八幡を背負って木島を追った。絶対おぶる必要はないと思うが。


ものの500mくらい行ったところか。木島は地面を眺め始めた。



木島

「ここかな。犯人は2分後にここを踏むみたいだから……よし。音爆弾置いとこう。」



木島は小さな火薬球をそこに巻いた。懐かしいな、それ。強く踏むと大きな破裂音する玩具だよな。



木島

「みんな、そこの茂みに隠れるのだ。」



言われるがままに、俺たちは茂みに隠れる。



すると、少し離れたところで悲鳴が聞こえた。



「ひったくりよーーーー!!!」



この人生で初めて聞いた、その言葉。


ひったくりか。いるもんなんだな。



そして、ひったくりは俺たちの前を全速力で走り抜けていこうとした、その時。


見事に木島の仕掛けた音爆弾を踏み抜いて、強烈な破裂音が響いた。


犯人は気を張り詰めていたからか、驚いてその場で横転してしまった。



木島

「よし、かかれ!伊月君!」



伊月

「はぁ!? お、俺!?


わ、わけわからんが、捕まえたぞコラ!」



俺は犯人に跨り、腕を後ろに組み上げて動きを止めた。



そうしてると、他の通行人が助けてくれた。俺たちは後を任せて急いで去った。このままじゃ警官が来ちゃうからな。



そして、基地。


俺は掃除をしながら、木島に聞いた。



伊月

「お前は予知能力なのか。」



木島は、んー、と首をかしげた。



木島

「予知、なのだろうか?


私は『データリストが見える』だけなのだが……。」



伊月

「データリストだぁ?」



木島

「うむ。


ゲームみたいにな。カーソルを合わせると、その人や物の名前が何で、年齢が何で、どんな能力で、職業が何で……って全部分かるのだ。そのリストの中には『次にどんなイベントが起こるか』も含まれてるので、ふむ。確かに、ほんのちょっと先の未来なら予知できるということになるか。ふふん。」



ははぁ。便利な能力だな。


しかも、さっきの事件に気付けたということは……まぁまぁ距離が離れてても大丈夫ということか。


なかなかだな。木島のくせに。



伊月

「ついでに聞かせてくれ。水本と八幡はどんな?」



水本はカウンター席に座って、ちょっと緊張気味に答えた。



水本

「ぼ、僕は、『物を浮かばせたり、飛ばしたり』できますっ!」



そう言うと、バーに置いてあったビンのいくつかが、まるで水の中でも漂うかのように空中に浮かび始めた。



伊月

「いかにも超能力者って感じだ。すげー。


八幡は?」



八幡

「ひみつ。」



伊月

「なに言ってんの。俺も言ったんだからさ。」



八幡

「同調圧力は嫌いだな。」



伊月

「うるせーな。なんだ、言いにくいのか?」



八幡

「んや。もったいぶりたい。」



こいつ。


しかし、そんな八幡の意を全く汲まず、木島はズケズケと言い放った。



木島

「八幡君はな、『銃人間』だぞ。」



八幡

「あ、言っちゃった。」



伊月

「銃人間?」



木島

「見せてやるのだ。」



八幡

「へーへー、リーダーに言われちゃしゃあない。


例えば、こんな感じ。」



八幡が手を叩き、離す。すると、手と手の間にはどこからともなく拳銃が現れたじゃないか。



八幡

「例えば、こんな感じ。」



次は、服をめくって、へそあたりを掴む。八幡が引っ張ると、少しだけ腹部が翡翠色に光り、その光明の中からアサルトライフルが取り出された。



八幡

「あとこういうのも出来る。」



右手の人差し指と中指を突き出し、銃の構えにする。



八幡

「バーン!」



その瞬間、俺の後ろにあったスチール缶が大きな音を立てて転がり落ちた。


咄嗟に見てみると、スチール缶には貫通した弾痕。さらには硝煙の匂いが立ち込めていた。



八幡

「ってな感じっすね。あ、水鉄砲もあるよ。」



いつの間にか取り出した水鉄砲を木島の顔に向けて撃っている。木島は「やめろー!」とか言って楽しんでいる。



とんでもない能力だ。特に日本じゃヤバい。


異能力ってのは、本当、異能力だな。


訳がわからん。



八幡

「おっと。銃を戻しておこう。」



八幡は銃に触れる。すると、銃は光の粒になって消えていった。


証拠さえ残らないな、これ。



伊月

「完全犯罪できそうだな。」



八幡は、やる気なさそうににやけた。



八幡

「してみるー?」



冗談じゃない。



しかし、なんだ。本当にこいつらはOpenerだった。


なら、信用してやらんと。こいつらは嘘を吐いてはいなかったんだからな。



俺は冷蔵庫の中の麦茶を1本取り、一飲みする。


どうか、ここで平穏に暮らせますように。そう願うばかりだ。

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