-6-「伊月」

話し合いを終えて、Openers基地。


繁華したアーケードから横道に逸れ、しばらく行って地下に続く階段を降りた先だ。


木製の扉の前には、例のガキどもが体育座りをして待っていた。


木島は寝ぼけ眼で俺を眺める。



木島

「遅いぞ。疲れてちょっと寝ちゃったではないか。」



伊月

「文句言うな。激戦だったのだからな。」



そう言うと、3人は固唾を飲み始めた。



八幡

「おちゅかれぇ、伊月。結果は?」



水本

「大丈夫……ですよね? ねっ?」



俺はわざと深刻そうな雰囲気を醸し出してみた。



伊月

「……なぁ。人生って、上手くいかないよな。」



それを聞いて、木島は唖然とした。八幡は「かーっ」と言って目頭を押さえた。水本は……息してるか?こいつ。座ったまま気絶してないか。



木島

「だ、ダメ、だったのか?


なんでだ!や、やはり顔か!?疲れた顔だからか!?」



八幡

「違うっすよ、これは間違いなく生気のない目つきっすね。こんな目付きの人がまともな生活を送れるはずがないって思われたんだろなぁ。」



木島

「もしかしたらそのヒゲもダメだったのかなぁ!? 半端に生えててみっともないから!」



八幡

「人柄かも。」



各々、めちゃくちゃ言ってくれる。いてまうぞコラ。



伊月

「お前ら、そんな文句言ってるとこの部屋貸さねぇかんな。」



そう言って、鍵をちらつかせた。


するとなんだ、水を得た魚のように勢いがぶり返したではないか。



木島

「わーーーーい! やはり伊月君だな! ちゃんと為すべきを為してくれてるじゃないの!」



八幡

「ビックリさせないでくださいよぉ。人柄悪いのはガチなんじゃないんすかぁ?」



水本

「よかった、よかった、よかった……!」



はしゃぐガキどもを中に入れ、鍵をする。



さてと。俺は向き直った。聞きたいことがあるのだ。


では、いざ聞かんとしたところ、木島が拍手をして騒ぎ出した。



木島

「では!正式にここがOpenersの基地となったし、新しく伊月君が加わったということで、お互いに自己紹介をしようじゃないか!」



ちょうどいい。俺もそれがやりたかったんだ。


俺はまだ、こいつらの能力を知らない。Openerだという以上、知っておきたいものだ。


そもそも、俺は俺以外のOpenerを知らない。どんな能力があるってんだ、他に。気になっちゃう。



木島

「じゃあ、誰からやろうか?」



なぜか静まり返るその場。


さっさと始めたいので、木島に声をかけた。



伊月

「なんだ、こういうのはリーダーが進んでやるもんじゃないのか?」



しかし木島、なんかもじもじしていた。



木島

「は、初めってなんか恥ずかしいではないかね? それにリーダーはしんがりを務めるというのが相場なのだ」



恥ずかしいなんていう感情があるんだな、こいつに。


しかも結構よくあるタイプの恥ずかしさ。子どもか。まぁ、子どもだな。



木島

「り、リーダー権限だ!伊月君が最初を務めたまえ!」



伊月

「あぁ、それでいい。


俺は伊月。能力は……実物をまず見てもらおうか。」



百聞は一見にしかず、だな。


俺は全員に問いかけた。



伊月

「誰か、最近風邪気味とか、ないか?」



すると、水本が恐る恐る手を挙げた。



水本

「は……はい。喉風邪、です。


あのぉ……何する気ですかぁ?」



伊月

「そんな震えんでいいよ。


背中を向けてくれ。」



水本は硬直したまま後ろを向く。


木島と八幡は水本を囲み、エールを送り始めた。



木島

「み、水本君。君との日々は楽しかった!もしなにかあっても、骨は必ず先祖の墓に持って行くからな!」



八幡

「先に行って、向こうにOpener出張基地を作っておいてな。あとゲーパソも用意しといて。」



そんなことを言うから、水本はついに泣き出してしまった。


なに煽ってんだこいつら。



水本

「死にたくないぃ……!」



伊月

「殺すかっつーの。」



水本の背に手を置く。


はぁ。じゃあやるか。



異能力を使うってのは、俺的にラジオの周波数を合わせる感覚に似てる。


精神を落ち着け、俺の異能力が眠る場所にまで降りていく。


自然と息が深くなる。


やがて、息が止まる。


これが、集中という奴だ。


すると、俺の手から奇怪な音が響き始めた。ガリガリと鳴るその音は、昔のHDDの読み込み音のように聞こえる。


水本はひぃひぃ言って神様に祈り始めた。木島と八幡も一緒になってお祈りをしている。


これ以上ビビらせるのも可哀想か。手早く済ませてやろう。



俺は、水本の背中から『身体の中を見た』。


別に目視するわけじゃない。感じるんだ、こうして、身体の中の『バグ』をな。



そう。俺はおそらく、『デバッグ』の能力を持っている。


矛盾、齟齬、ほつれ。対象のあるべき姿を阻害する原因を探し出し、そして……。



突然、水本の背中から飛び出した黒い『虫』を掴んだ。



木島

「ぎょっ!? な、なんだその虫は!」



八幡

「水本が虫生んだ。」



水本

「え!? え!? 僕、え!?」



伊月

「落ち着け。どうだ、水本。喉風邪は。」



水本

「え?


……あれ!? 痛くない! 治っちゃいました!」



俺は虫を握り潰す。虫は塵となって消えていった。



伊月

「以上だ。」



木島

「な、なにをしたのだ!?」



水本

「な、なにをされたの!?」



さっぱり状況が掴めていない2人だが、1人はそうじゃなかったようだ。


八幡は感嘆の声を上げながら、満面のやる気なさげな笑みで拍手をしていた。



八幡

「デバッガーだぁ! あっははは、凄いなー、凄いなー!」



木島

「で、でばっがー?」



水本

「ぼ、僕、僕は死んじゃうの? ねぇ、ねぇ?」



八幡

「死なないよ。むしろ元気になったっしょ?


たぶん、伊月は『バグを見つけて取り除く』能力なんだよぉ。ねぇ?」



伊月

「ご名答。


もっと分かりやすく言えば、俺は例えばビョーキとかケガなんかを虫の形で取り除くことが出来んだなコレが。」



木島と水本は途端に態度を変え、めっちゃ食いついてきた。



木島

「スゴーーーーい! かっこいいではないか!」



水本

「病気を治せるんですか! 凄い! 凄い!」



なぜかうんうんと頷く八幡。


まぁ、分かってもらえてなによりだ。


そして、気が晴れた。


これ、警察に追われるまで誰にも見せたことないからな。


それが認められた。相手はガキだが、いや、十分だ。



俺も、木島に負けず劣らず単純な奴だな。うん。


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