-4-「事情」
伊月
「みっともないところを見せてしまった。だから話だけは聞いてやるわい。」
木島は、崩れそうな砂の城でも扱うかのように言葉を選び始めた。
木島
「お、おぉぉ。大丈夫なのか? 話を聞いてくれるのか? 大丈夫なのか? また泣いたりしないか? 大丈夫なのか?」
伊月
「大丈夫だから安心して。その対応のが余計に傷つくわ。」
木島
「そ、そうか! じゃあ本題に入ろう!」
木島は水本を呼ぶ。水本はいくつかの書類をテーブルに置いた。
めっちゃ手書き。しかも文字が下手すぎて解読班が要るぞコレ。
木島
「Openersの極秘資料だ。バラすでないぞ……?」
そんな声を潜めなくても、そもそも読めないから。ある意味これはセキュリティ万全だな。
木島
「我々は考え続けてきた。どうすれば世間がOpenerの存在を認めるだろうかとな。
その案として、やはり大勢の前でOpenerショーをするのが一番効果的かと」
伊月
「ダメだろそれ!」
木島
「え、なんで?」
伊月
「いや、なんでって。いきなりそんなの見せられたらパニックになるぞ?
そんなことをしたら警察を呼ばれたり、悪い奴らに捕まるかも。」
木島と水本は顔を見合わせる。ゴクリと生唾を飲んだ。
木島
「確かに! そのリスクは思いつかなかった!」
水本
「みんなこれで分かってくれるとしか考えてませんでした……!」
伊月
「……あー、お前たち。年齢は?」
木島
「ん? 私と八幡は14、水本は12だぞ。」
伊月
「おい……水本は分かるが、お前はもうちょっとリスク管理出来てもいいだろ。」
木島
「ごめん。」
謝られても。
木島
「じゃあなんだ、伊月君はもっと凄いアイデア出してくれるのかね!?ヒュー!」
逆ギレされても。
しかし、そうだな。俺なら例えば。
伊月
「今時はSNSを使うのがいいかもな。それで宣伝……宣伝はやりすぎだな。こう、ちょっとずつ浸透させるようにしていけばいいんじゃないか。」
「おぉ!」と木島と水本は拍手した。ゲームをしていた八幡も、こっちを向いて頷いてきた。
八幡
「分かるー。やっぱTwitterっすよねぇ。専用アカ作ろ。」
木島
「くっ……悔しいが、やはり君の才能は本物だ。その調子なら、私の右腕になるのも遠くないかもしれない。」
心配するな。お前の右腕になったら全仕事任されそうだから絶対ならない。
水本は俺の手を握り跳ねていた。
水本
「凄い凄い!伊月さん、流石ですね!」
素直に喜べるか。大した案でもないというのに。
でも、彼女たちにとっては十分な叡智なのかもしれない。
ひとしきり俺を褒めたところで、木島は俺に向き直る。
木島
「話がある。」
伊月
「なんだ。」
木島
「伊月の仕事内容についてだ。」
伊月
「仕事ぉ?」
ここで俺はハッと我に返る。
そういや、さっき八幡が『ヒモになってくれ』と言ってたな。
そしてこの部屋のとっ散らかり。片付ける奴が一切いないことを示している。
もしかして、ここにはこいつらの保護者役が一切いないんじゃないの?
となると、俺に降りかかるものって言ったら……。
木島
「あの。ここの家賃と光熱費、よろしくお願いいたす。あと片付けも……。」
伊月
「待て待て待て待て!
いや……どういうこと!?」
木島
「うむ、私がここに基地を構えるのを夢見てから、ここのオーナーに何度も頼み込んでな。ようやく折れて、1ヶ月だけ無料で貸してくれることになったのだ。
しかし、次回からは家賃と光熱費を貰うと宣言されている。どうしよう。そうだ、伊月君がいる。みんな幸せ。」
伊月
「何言ってんだよ。
というか、ねぇ?ここに来るの、もしかして3人だけ?」
木島
「そうだな。Openersは君も含めて総計4人の零細組織だ。
まぁ、今は……だがね?」
なに不敵な笑みを浮かべとるんじゃい。
あぁ。これはこれで地獄だ。俺がなんでこいつらの遊び場の維持費を出さないといけないんだよ。
どうするのよ、俺。
俺Aが呟く。
隠れ蓑となる新居に越せるとなれば、これほど美味い話はないぞ。
それに、こいつらはガキでもOpenerだ。その点では信頼できる。
俺Bが囁く。
オーナーとどう話を付ける気だ。俺の身分はどう説明すればいいんだ。
というか落ち着けよ。まだこいつらの能力見てないぞ。本当かも怪しい。
伊月
「げろげろ…」
木島は一筋の汗を流しながら、俺の目をガン見している。
水本は商談が上手くいくようお祈りをしている。
八幡はゲームをしている。
……こいつらに、金を払うべきか。リスクを負うべきか。
……。
伊月
「…分かった。受けよう。」
木島
「えっ!」
水本
「本当!?」
伊月
「あぁ。」
木島
「ぃやった! 見たか! 商談を成立させてみせたぞ! やった! うぉー!」
水本
「リーダー凄い! 伊月さんありがとう! 八幡さんもお祝いしようよ!」
八幡
「これでゲームができる。」
ガキどもは各々に喜びを体現していた。
まぁ、助けてもらったから。
蜘蛛の糸返しだ。俺にすがりすぎても糸切れるかんな。
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