-3-「組織」

目を覚ますと、そこは小洒落たバーであった。


しかし、見渡せば、いくつもの書類やゲームや漫画が散らかり放題になっていた。



伊月

「ゴミ捨て場か……?」



途端、俺の腹部に衝撃が走り、「げふん」と情けない声が出てしまった。


腹部に走る鈍痛を歯で食いしばりながら、腹パンした奴を確認する。


そいつは、アホ女だった。名前を……木島と言ったか。



木島

「人の基地をゴミ捨て場と呼ぶでないわ。これでもまだ1ヶ月目だぞ。」



1ヶ月でこれかよ。


カウンター席には、中性的な男。こいつは水本と言ったな。



水本

「えっと……唐突にごめんなさい。僕たちの話を聞いてほしくて。」



視界外からは、カチャカチャとボタンを押す音と、やる気のなさそうな声が聞こえる。こいつが八幡、か。



八幡

「ヒモになってくだせぇ。じゃないと明日からまた公園にあるドームの中が基地になっちゃうんだよねぇ。」



木島

「それは心底嫌だ。凄くダサいからな。


伊月君。頼みがあるのだ。」



な、なぜ俺の名前を……?


こいつら、やはり俺を調べ上げてきた秘密警察的な……。



水本

「あの、ごめんなさい。免許証を見させてもらっちゃって……。」



俺、バカかな? 勘ぐり深すぎだ。



バカバカしくなって身体を起こそうとしたが、上手く起き上がれない。


あぁ、そりゃそうだ。気づけば縛られとるやんけ。



伊月

「焼いて食う気か? 俺はマズいぞ。」



木島

「うむ、私もそう思う。」



失礼な奴だな本当。



木島

「別に食べるわけじゃない、安心してくれ。


君を我が組織『Openers』に正式採用したいんだ。」



伊月

「お、おーぷなーず?」



木島は歩き回りながら説明をし始めた。



木島

「どこから話そう。昨日くらい? 去年くらいか? 水本君。」



水本

「えっと、Openers結成の理由とか、でしょうか?」



木島

「おぉ、それがいい。


我々はみんなOpenerだ。君のようにね。」



凄くサラッと言ってみせたな。


俺、この29年間、OpenerのOの字さえ言わないようにして身を隠してたってのに。



木島

「Openerって不遇だろう。君も痛感したんじゃないか? だからあんなところでへろへろになってたんだと推定するのだが。」



伊月

「それは……違い、ないが。」



木島

「よろしい。


だから、私たちは立ち上がったのだ。どうにかしてOpenerの存在を世に知らしめ、なんかこう、良い感じに仲良くしていきたいなぁと!」



無鉄砲な創立理由だな。


呆れた俺を察してか、水本は慌てて補足をした。



水本

「あ、あの! 遊びとかじゃないんです!


僕たちみたいに、自分のことを認められなくて、けど言い出せなくて、苦しい日々を過ごしてるとか……Openerだとバレて酷いことされたり、よく分からない組織に捕まって行方不明になっちゃってる人たちがいます。僕たち、そんな人たちの助けになりたいんです!」



伊月

「そりゃあ立派だこと。クラウドファウンディングでもしたら?」



木島

「なに? くらうど、ふぁうん……?


ふっふっふ、やはり君は逸材だ。我々に思いつかない方法をサラッと思いついてくれるな! そんな社会人のOpenerが必要だったのだ!」



水本

「よ、ようこそ、伊月さん! 歓迎します!」



八幡

「大人の力を見せてくれぇい。」



伊月

「うぉーい。いつ俺が入ると言ったんじゃい。


入らんから。俺、警察に追われてるし。それに、お前らとつるんでたらそれはそれで罪が増えるわ。」



木島

「Openerだからか?」



伊月

「未成年だからだ。」



木島

「はっはっは!気にしないでくれ!」



伊月

「バカヤロウ、気にするわ。」



木島

「それに、警察に追われてると言ったな。


怖いのか?」



伊月

「……当たり前だろ。」



あぁ、怖い。心底怖いね。


俺がOpenerと知ったあいつらがなにしてくるか。


Openerの力は世界を変えかねないと、勝手に思ってる。そしてそれは、そんな間違いでもないと思うんだ。


水月も『変な組織に捕まって行方不明になったOpenerもいる』と言った。これが本当なら、余計に俺の仮説も真実味を帯びる。


だからこそだ。こんなガキどもを巻き込むわけにはいかんと言ってるんだ。



しかし、木島は微笑んで、俺の頭をなでてきた。



木島

「ん。なら、守ってやろう。」



伊月

「へ……?」



思ったのと違った。


例えば、強がって、「大丈夫だ」とか言うのかと思った。


しかし、彼女はそんな想定を通り越して、守ると言った。


ガキだと思ってたから、余計に俺は度肝を抜かれたのかもしれない。



そして、ちょっと目頭が熱くなった。



こいつら、俺を理解できるんだな。


しかも、Openerの俺を守ろうとしてくれるんだ。



チクショウめ。


なにもかも失って、一人ぼっちになった俺に、変な光を見せやがって。


やべぇな。見知らぬガキの前で潤むなぞみっともない。


深呼吸をして、落ち着かせる。



木島

「お、深呼吸か?そうだろう、ここは良い空気だろう!なぜなら私たちの基地だからな!


そして、お前のこれからの家だからだ。家の中の空気ほど落ち着くものはないのだよ。」



……チクショウ。


こいつ、アホのくせに。ガキのくせに。



なんで、こんなに。



一筋、涙が流れてしまった。


それを機に、決壊した。俺、すげぇみっともなく泣いちまったんだ。


流石に3人もビックリしたらしく、3人して俺の頭や背中をさすったり、手を握ったり、「大丈夫、大丈夫。」となだめたり、忙しそうだった。



本当やめて。余計にキマるから、それ。

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