-2-「捕獲」

俺はしばらく廃ビルから離れられなかった。



外は相変わらず雨が降っているもんでな。



だが、雨が上がったとして俺は…どこ行けばいいんだ。



俺、やっちまったもんなぁ…。


もし秘密警察ってのがいるんなら、絶対俺に

目を付けたに違いない。


そんだけド派手にやっちまったんだ。



伊月

「げろげろ…」



すっかり落ち込んでいると、突然、下の階から素っ頓狂な声が聞こえてきた。


声は3つ。全員、女っぽいな…しかも若い。なぜこんなところに来たんだろうか。


声の主は階段を上ってくる。



「はっはっは! ここだな、絶対ここだな!


我が能力、『alookup』がここだと告げている!」



「こんなぁ寂れたところにいるんす?


やだなぁ。ろくでもないOpenerな気がするなぁ。」



「あ、あの、リーダー。優しい人ですか?怖くないですか?」



「ビビっておるな、水本少年


なぁに、怖かったら怖いと言えばいいのだ。優しくしてくれるぞ、たぶん。」



なんて呑気な奴らだ。



Openerという言葉。


これはどうも、不運にもこんな科学至上主義の現代に生まれ落ちてしまった、『現代科学では解明出来ない不思議な力を持つ』異能力者を指し示すものらしい。


と、ネットで見た。



俺もまさしくそうだ。変な力がある。おかげで警察に追われてる。



奴らが、なぜこの廃ビルにOpenerである俺がいることを知ってるかはわからないが……ここはひとつ、芝居を打つか。


怖いおじさんの演技をしてやる。追い払ってやるぞ。


なに、これも奴らのためだ。


変に俺の事情に巻き込むわけにはいかんだろう。それでなにかあったら、目覚めが悪いしな。



伊月

「ガルルッ。ガルルッ。」



怪獣の真似をしつつ、待っていた。


すると、奴らは現れた。やはり3人だ。ぱっと見、全員未成年に見える。



1人はYシャツとスラックスを着た女。俺を指差してめっちゃ喜びつつ、他の2人にドヤ顔している。



「ほーら!ほーらいた!我が能力、未だに誤りを知らず…!」



1人はだらしない服装とサンダルの女。猫背になって俺の顔をじっと見ている。



「寂れてるおっさんだ。お疲れでやんすねぇ。」



1人は『Pump it』という文字の入ったTシャツと半ズボンの中性的な男。アホそうな女の後ろに隠れて、不安そうにこちらをちらちら見てくる。



伊月

「なんだお前ら。食っちまうぞ、ガルル。最近の若者は肉付きがいいぜぇ。」



「おぉ、よかったではないか。いつも貧相と呼ばれるのにな。」



「おい、それは誰に向かって言ってんすかァ?」



伊月

「おい、話を聞け。さっさと立ち去れと言ってるんだ。襲っちゃうぞ。おじさんはね、怖いおじさんだからな。」



気合いを入れて脅したが、それに反応しているのは中性男ばかり。



「あ、あの、こ、怖いので……怖くない感じに、してください。お願いします……。」



その男も、気の抜けること要請してくるときたもんだ。


アホな女は、怖気づきもせずに一歩前に出た。



「追われてるんだろう?」



ドキッ。その通りだ。



「私たちの基地に案内しよう。そこなら君を匿える。


話はそれからにしよう。あぁ、私は木島きじま。こっちの陰キャっぽいのは八幡やはた。後ろのショタは水本みなもと。さ、一緒に付いてきたまえ。」



伊月

「いや、何言ってんだ。」



俺は付いていかない。



そう言おうとした瞬間、陰キャと呼ばれた女が俺に何かを投げつけた。


パリンと割れて出てきたのは、甘い匂いのするガス。



やべぇ。すげぇ眠くなってきた。



出会って数分、俺はあえなくガキどもに気を失わされたのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る