Openers

@Normalize

§1 Openersに加入するのだ、伊月君。

-1-「異質」

いつかはこうなるだろう。



分かってはいたはずだ。


でも、実際にこうなると、やはり…辛いな。



雨の叩きつける音、サイレンの音、野次馬の悲鳴、屈強な青服たちの怒号、荒くなった息継ぎに、水溜りを蹴飛ばす革靴の音。


ぐちゃぐちゃになった音たちが、俺の鼓膜を過剰に押し込んでいく。



どこへ逃げるつもりだ?



この世界にお前の居場所はないだろ。



全ての音がそう責め立ててくるように感じる。



「ハァ、ハァ…うるせぇ、なぁ…」



俺は廃ビルに飛び込んだ。


するとどうだ。音は急に遠のいたじゃないか。



あぁ、なぜか落ち着く。


そう、か。俺にお似合いの場所ってことかもな。



俺は雨漏りのする廃ビルの錆びた階段を登っていく。



意識も朦朧だ。雨に当たりすぎたか、風邪でも引いちまったかな。



…俺、これからどうすんだ。


もう、世間には戻れねぇぞ。


山奥で自給自足でもするしかないか?


都合よく廃村とか無いかね。



取り止めのない頭のまま、何階登っただろう。



気づけば、全ての雑音が消えていた。


聞こえるのは、俺の足音だけ。


辺りを見渡すと、さっきまで寂れたビルが並んでいたのに、何もなくなり、ただただ白く輝いているだけだ。



「俺、どうしたんだ?


死んじゃったんかな。」



縁起でもないことを呟きながら、さらに階段を上っていると、ドアに辿り着いた。


屋上か。たぶん。



扉を開けると、やはり辺りが真っ白に輝いていた。


到底、ここがさっきまでのビル群の場所とは思えない。



屋上の真ん中には、1人の少女が座っていた。


ジャージを着て、ソファに横たわり、漫画本を読んでいる。



「…なにしてんの?」



俺は、つい聞いてしまった。


やべ。未成年に声かけただけで捕まるご時世で。


でも、まぁ、今更か。



少女は、俺の方を気怠そうにちらりと見た。


読んでいた漫画本を閉じ、それを枕にして、俺の方を向いて寝転がり直した。



「なにしてんのって、漫画本読んでるんじゃないの。」



確かに。


でも、聞きたいことはそうじゃない。


さらに質問を重ねようとしたら、少女はそれを制止した。



「あーいいよ、分かった分かった。


私は君に挨拶しにきただけだよ。」



「挨拶?」



「そう。挨拶。」



彼女はゆったりと座り、足を組んだ。



「君、助けてやってくれ。暇でしょ?」



「助けてやれ…って、なんだ?」



「君みたいな奴らをさ。」



ようやく彼女は立ち上がり、俺の額へ指先を向けた。



「君の能力なら、期待もしたくなるだろう。


よろしく、伊月遥斗いつき はると君。」



彼女がふっと微笑んだ、次の瞬間。急に全てが元に戻った。


雨の音や喧騒の音が耳を打つ。



しかし、既に警察たちの気配は無かった。



夢、かね。


呑気なことだ。お尋ね者になっちまったくせに。

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