サボテンの群れとは言ったものの

サボテンの群れとは言ったものの、もっと近づいて見てみるとサボテンとは程遠い植物が150cmから170cmの高さで並んでいた


「なんだろうこれ…サボテンにしてはトゲが長すぎるし…蕾までつけてる」


「それはこの荒野にて戦死していった者たちの植物だ」


後ろから声がしたので、驚きど同時に僕は振り返ると、凛としている印象の金髪を長く垂らした鎧装備の男性が佇んでいた


顔立ちが整っていてイケメンの部類だろうと瞬時に判断し、顔の側頭部にある特徴的な長い耳は、昔読んだエルフという種族に似ていた


「あ、あなたは?」


もしも性格の悪い者であれば僕を殺して物あさりをするだろう


腰に下げている長い剣がそう告げていたような気がした


「何、ここら辺を領地にしている部族の一人でな。そう警戒しなさんな」


どうやら僕の瞳に映った恐怖と警戒を見抜かれたようで、エルフの男に宥められた


「実は僕────」


「あぁ、事情は理解している。君のような人間の他にも“セイト“と呼ばれる職の者が、部族の者たちが拾って状況判断を行っている最中だ」


え、それってつまり僕達を助け────


「簡単に結論を出すと生かすか殺すか…だね」


ガンッ、と頭を思い鈍器のようなもので殴られた感覚が広がり


え?


と、岡本は頭の中で疑問符を浮かべながら倒れるのだった


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


エルフの男に連れてこられた洞窟内の鉄格子による牢屋に、男子生徒がチラホラと見える


元々クラスメイト35人中20人が男子生徒なだけあって、一学期に挨拶程度を交した顔見知った男子が数人いた


「俺たちこのまま家に帰れずに一生をここで…?」

「い、いやだ…帰りたい」


こういった言葉が飛び交うと不安材料となり──


「おい!!静かにしろ“セイト“ども!!」


看守のようなエルフの男の怒号で、静まり返ると、さらに男子は次々に恐怖心と怯えによる体の震えが増幅した


しまいには漏らすやつまで現れる始末だ


「で、でもよ…童貞卒業できる上に…快楽死……なんだろ?さ、サイコーじゃん」


選別による生かすやつは種馬となり、それ以外は殺すそうだ


間抜けがそう言うと、間抜けに釣られた阿呆が口角を上げ出す


「へ、へへ…そうだよ!耳の長いやつらみんな美男美女だったぜ!?しかもよ──」


その男子生徒のあとは、僕が殴られ気絶させられたあと、起きた時に聞いたエルフの男と出会ったと同じだった


『俺たち長耳族は長寿なのだが、雄の方はどうしても精子が少ないのだ』

『一部を除いた、どのような生物と交配しても耳長族の血が強いので生まれてくる赤子は耳長族の子になるのだがな』

『我々の耳長族の雌共はが出るまで生物を犯し続けるのだ』

『つまりだ、どれだけ体力があろうとも』

『どれだけ長さ太さに自信があろうとも』

まで雌共は繋がったままでいたい様なのだよ』

『だからといって何十人も養うつもりは無い、こちらで選定させてもらうがな』


「『雌とは死ぬまで一緒だ』」


間抜けの男子生徒の言葉を聞いて岡本は意識を覚醒する


こんな所にいてはダメだ、と


知らない場所に来て何も知らずに死ぬなんて真っ平御免だ、と


生きも地獄、選ばれなくとも地獄


気づいた頃には身体が牢屋から出ようとしていた


「僕は嫌だ!知らない場所て何も知らずに死にたくない!!」


━━━━━━━━━━その選択肢はもっと周りを殺すぞ?


「そんなことはどうだっていい!ここから出してください!」


看守のような男に僕は願った


「お、おい岡本…」

「よせ、やめとけって…あいつに関わったヤツら知ってんだろお前も」

「そ、そうだな…」


━━━━━━━━━━━━━周りだってああいってるぜ?


「尚更いい!!僕だけでもここから出して────」


「煩い」


迫る長物の先端は、額に硬い感触を残して僕を強制的に眠らせた


「……他に文句のある“セイト“は?」


「な…ないです」


「ならいい、じきに答えが出る。待機しておくように」


────────────────────


よく考えてみろ


何を?


生かすか殺すかを選定するとはいってたが、奴らが自分の手で殺すと思うか?


つまり、いい種を持ってそうなやつだけを残して


後は野に放つ、だと思うぜ?


「でも結局は地獄じゃないか」


クラスメイトの学級委員長である“大空 翼“君がそう言うと、他の男子も不安になり、落ち込み始める


翼君の見た目は、高身長で体格がよく、刈り上げた短髪が女子に人気の男子だ

クラス内で目立ったこともあり、一学期中はラブレターの対処に追われていたのが印象的だ


そんな翼君が男子を先導しようとしていた


元々男子からも好印象なので、翼君が何か言う度に元気を取り戻したり、不安や愚痴を並べるとテンションが一気に下がったりもしていた


人1人ではなにも出来ない、先導し、信頼出来る者が居なければ動けない


それが学校の生徒組織で、それが良いと言えば悪いとも言えた一面だ


「だけど、たとえ地獄だとしても!僕らには知る権利がある!なんでここにいるのか!クラスのみんなは無事なのかとか!」


翼君は激昴した。


おお、確かにそうだ、他のみんなは無事なのか


そんな声がチラホラとあがり、男子全員立ち上がる


僕も流れに身を任せて立ち上がる


「そうだ!こんな所で死んでたまるかってな!行こうぜみんな!」


翼君の先導に続く男子生徒たち


運がいいのか鉄格子自体は洞窟天井から流れる水滴により錆びており、いとも簡単に外れることが出来た


「お前ら何をしている!」


鉄格子の外れた音を聞いた看守は槍を持っており、殺意を持って男子たちに突き刺さそうとしてきた


「ここから出るって決めたからには覚悟決めてんだ!」


翼君がそういうと徒手空拳の心得があるのか、槍の木の部分を脇に挟み、空いた片手でエルフの看守に鳩尾1発食らわせる


「おごぉ……!」


「みんな!槍を奪って!こいつを行動不能にするぞ!」


ほかの男子はそれを聞いて行動に移しだす


3人は身ぐるみを剥がし

2人は槍を奪い

1人はエルフの男が着ている服をちぎり、猿轡をして声を出さないようにする


岡本を除く残りは周囲から他の看守が来ないかの警戒をする


警戒とは言ったが、平和な世界で過ごしていた戦闘経験のない生徒にとって、どのように警戒すればいいかなど分かるわけもないのだが…



隅で岡本は1人、傍観をキメていた

暴力する力もなく、また警戒の仕方も分からない岡本は状況を見続けるしかなかった


「おい岡本!お前もなんか手伝えよ!」


男子生徒のひとり、山門がそう言うが、なんの能力もない岡本にとって下手な手出しは人に迷惑をかけることを知っていた


「ちっ!使えねーな!…佐々木!警戒任せて手伝ってくれ!こいつ暴れまくってて…っ!」


エルフの男は捕縛していた縄を解こうと身動ぐが、ぽっちゃりしたデブ佐々木が上からのしかかり行動不能にする


「おし、固結びすりゃすぐには解けないだろ…委員長!終わった!!」


「良いぞ!…あぁまて、それだとダメだ。俺が縛るよ」


大空は結び目を男結びに変えて、簡単に解けないようにした


「なんだか知らねぇ結び方するな翼」


「親父が縄の結び方をほとんど取得しててよ、遊び半分に覚えたのが幸いだったな」


遊び半分で縄の結び方を覚える翼くんの方が、翼くんのお父さんよりすごいと思う


そう考えてるうちに洞窟内が騒がしくなってくる


他にも看守がいたのか、はたまたここがエルフ部族の寝床なのか


牢屋に誰もいなかったら大変なことになると思い、男子生徒全員はすぐさま逃亡を図る


「すぐ逃げよう、極力戦いは控えて洞窟の外で全員集合できるようにみんな、頑張ろうな!」


翼君がそういうが、僕、岡本としてはその発言に不可思議な部分を疑問に抱く


──なぜ見捨てるような発言をしたのか?


疑問はすぐに消えた


翼君が一人で猛ダッシュし始め、かのように動き出したからだ


翼君自体は運動神経抜群なので、ついていける男子は少数に限る


遅いものはすぐ翼君の姿を見失い、他の看守達と出くわしてしまったのだ


その遅い者の中に僕が含まれるのは当然だが…


「貴様らァ!何をしている!!」


四方八方から迫る武装した看守達に、殺される男子生徒達


なるほど、遅いものは殺す予定だったらしい


僕もそれに含まれるようだ


「大人しくしていればいいものを…ふっ!」


1人の男子生徒は首から上を刎られ

1人の男子生徒は心臓部分を一突きされ

1人の男子生徒は四肢を断裂される


そんな感じで次々と生け捕りと殺しを繰り返すエルフの看守たち


足が遅い生徒たちでも種馬として使う奴もいるようだ


ちなみにデブ佐々木は殺されている


そして僕はというと────


「貴様、オカモトとか言うやつだな?」


なぜか僕の名前を知っている1人のエルフ看守が問いた


「え、えと、はい…そうです」


殺す意思の強い槍を向けられた状態では嘘なんて付けるわけもない


ましてやこの世界が異世界であり、ファンタジー特有の魔法なんてものがあればすぐさま嘘は見抜かれる


「ふん、本当らしいな…貴様は別待遇だ。悦べ」


なにを喜べばいいのだろうか?

心を読めるならばと僕の思った疑問だったが、それは無視された


嘘か誠かを査定する程度の魔法なのだろうと判断したものの、質問が来なければ魔法は行使されない


便利なものだが、科学技術もまたそういった嘘発見器は存在する


平和な前の世界は魔法はあったのだろう



逃亡を成功したのは翼くんを含む5人の生徒

足の遅い男子生徒のうち、死んだ生徒は10人中8人

2人は僕、岡本とひょろ長い鈴木だけだ


僕と鈴木が槍を向けられた1人の看守に付いていくと、また別の牢屋だった


牢屋に入るとエルフの看守から


「正直に言うと全員生かす予定だったのだ」


と、告げられる


「は、話が違う…」


と、鈴木


鈴木の中での思いを、疑問にして言葉に並べた


あなたとは別のエルフの看守から殺すか種馬にするかを聞かされた、と


「最初はその予定だったのだ、種馬にしたところでこちらの食料にも限度があるし、管理が難しいだろうと上の判断でな」


ではなぜ、男子生徒達が逃亡した時殺したのか


「お前たち“セイト“は未知数なのでな、“上“は殺さずに実験させようと結論が出た瞬間、貴様らは逃げたというわけだ。生け捕りを命じられたものの、貴様らは未知数だ、謎の力による反撃を受けては溜まったものでは無いのでを装って殺したのだ…悪く思うなよ?逃げようとした貴様らが悪いのだから」


実験体────


“セイト“は未知数であり、調べる必要がある


ただの人間なのに────


「ふ、ふざけるなよ!誰の許可あって自分たちを実験体にしようなんて────もがっ!」


「黙れ」


槍を持つエルフは持ち手を逆さにし、柄の部分を鈴木の口に押し込み、黙らせる


「オカモトは静かなのにスズキだったか?貴様はよく吠えるな…」


「あ、の…なぜ僕らの名前を?」


「ん?なんだオカモト…聞いてないのか?“セイト“達は仲間意識が強いと思っていたのだが…オオゾラ ツバサと言うやつから、ここに来たヤツらの名前を聞き、記録しているのだよ」


なんということだろうか。翼くんは自分が助かりたいなら仲間を平気で売るようなやつだったのだ


「ツバサは自己評価もしていてな、嘘かどうかは目を見ればわかっていたのだから、言ったこと全てが事実の為、我々の評価は高くしていたのだ」


「つ、つまり翼君は生き残る可能性が高かった…?」


「それ以前に我々の仲間に加えようとも案が出ていたのだ、やつほど優秀ならば繁栄も約束されたものだと確信していたのだが…」


「翼君は──逃げた?」


「そうだ、我々はツバサを許しすぎてな。洞窟内の見取り図も1度見せただけなのだが、完璧に覚えていたようだ…」


エルフの看守は悔しがった

槍の柄の部分を、怒りで握りしめる振動が鈴木の歯をカタカタと鳴らす


「────お前たち“セイト“を信頼できなくなった瞬間だ」


鈴木と僕に怒り混じりの睨みをきかせるエルフの男は、喉奥に槍を突き入れる


「オボェッ!」


「こんな雑魚相手に!私は!我々は!」


ガツガツと突き入れては戻し、突き入れては戻すを繰り返すエルフの男


鈴木の喉奥は破れ、血が飛び出して口内を真っ赤になるのを僕、岡本は見た


多分だが、息も吸っているので肺に血が入っているだろうと予測できた


出血の溺死、それよりも突いた喉奥にあたる椎間関節の損傷での即死か


どちらにしろ苦しみながら死ぬことに変わりないだろうなと、僕こと岡本は眺めた


「……死んだか」


槍の柄を抜かれた鈴木は顎を外され、白目からは涙を流し、口内の歯は抜かれていたようで、貫通した喉奥の向こう側を覗くことが出来た


改めて、この耳の長い男は人外であるというのが認識出来た瞬間だった


「オカモト、お前は────」


「…や、殺るなら一瞬で、…一撃で、……くっ、苦しませないようにお願いし、します!」


鈴木の現状をみた僕は、思っていた以上に恐怖に打ちひしがれていた


しかし、長い耳の男はため息をこぼし、告げる


「話を最後まで聞け、我らが崇拝する巫女殿が、お前さんを随分気に入られたのだ。だからなのだよ」


────え?


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