第3話 美容院 その1
ひさこの身長は164センチ。体重は定かでないが、健康診断のたびに「痩せ気味」と「痩せすぎ」の境界線を行ったり来たりしているのでよくダイエットの秘訣はと聞かれる。だがもともと小食の上に胃腸があまり強くないので、ちょっと心配事があったりちょっと食べすぎるとすぐ食べられなくなってしまう。なので、太らないというよりは太れないという方が正しい。
髪の毛は胸がすっかり隠れるぐらいのロングヘアーで、ここ数年軽くパーマが当てている。彼女の人生でショートだったのは、まだ自分で髪の毛を洗えなかった幼少のころと、中学に入ったら校則で襟に髪の毛がついてはいけないと母親に言われて入学前にバッサリ切った時ぐらいである。いざ入学してみたら別に長ければゴムで結わえればすむ話だったことにショックを受け、それ以来はずっとロングである。
さて、容姿の方はというとこれが全く自信がない。だからあまり鏡もよく見ない。なので実際のところはどうかわからないけど本人的には自信がない。化粧品屋の美容員さんに「目鼻立ちがはっきりしていらっしゃるから…」などと言われても、営業トークよねと思ってしまって信用しできない。だからきっとひさこは一生容姿に自信が持てない。そんなわけで巨大な鏡の前で長時間座っていなければいけない美容院は大の苦手である。
そんな苦手な美容院だが全く行かない訳には行かない。ひさこは年に1回のパーマ。その間3ヶ月ごとにカットして毛先を揃えることにしている。パーマも1年も経つとほとんど効力を発揮しないしカットだってもっと頻度を上げる方がいいと苦言を述べる美容師もいる。だけどひさこは主婦だから美容のためにそんなにお金や労力をかけられない。最大限譲歩したのがこの頻度なのである。以前はずっとストレートだった。だが最近街中で見かけるストレートの人は本当にまっすぐブローしてきめている。ひさこにはそんなブローにかける時間もない。だからパーマヘアにすればさほどブローに時間を費やさなくてもなんとなくかっこがつくしアップもしやすいから気に入っている。
今通っている美容院はカット2000円という破格が気に入って通い出した。最初のシャンプーから最後のブローまで同じ美容師さんが担当してくださるのも気に入っていることの一つだ。ただ、前回のパーマの時にとても悲しい思いをした。詳しい内容は思い出したくもないからここでは語らないが、とにかくあの美容師さんは二度と嫌だと思った。美容院自体を替えようかと思ったけど他に良さげなところを見つけることができなかった。ならばご指名というものを利用してみようと決めた。サイトを調べると、スタッフ一覧の写真が簡単なプロフィールと共に掲載されていた。どの写真もちょっと斜めからポーズを決めて微笑んでいた。その中で一人だけ少し前屈みで照れ臭そうにしている写真があった。今にも「えへへ」という声が聞こえてきそうだ。平田あかりさん。カット歴8年。指名料500円。なんだかいいかも。ひさこと同じパーマのロングヘアだったことも気に入ってことの一つかもしれない。あかりさんを指名して予約画面に進んだ。
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