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香坂の肌は男性の割にきめ細かくて美しい。約一時間のフェイシャルエステを終え、香坂に話し掛ける。
「蓮さん……私ここに来て本当に良かったです。蓮さんにはシャンプーやエステ、色々なことを教わりました。ありがとうございました。でもひとつだけ……わからないことがあります。あの日、蓮さんが……どうして私にキスをしたのか……」
香坂はずっと瞼を閉じたままだ。
「……蓮さん? 蓮さん? ……あれ?」
私は香坂の唇に耳を近付ける。
寝息は……聞こえない。
でも……返答はない。
私みたいに、寝てしまったようだ。
三上が転勤し連日忙しかったから、疲れが蓄積されてるんだよね。
「私なんかに時間を費やして、丁寧に指導して下さり本当にありがとうございました。感謝しています。私、辞令が下りたから明日異動します。だから……今夜で最後です」
眠っている香坂に話し掛ける。寂しくて胸がキューッと締め付けられた。
「鳴海店長はここにいてもいいと言ってくれたけど、恭介もいるしやっぱり出て行きます。ここは私の居場所じゃないから。身分不相応、技術も資格もないのに、皆さんの優しさに甘えて、ここにいてはいけないと思ったから」
シーンと静まり返った室内。
目頭がじわじわと熱くなる。
「……でも、いざ転勤になると、寂しいものですね」
視線を伏せた時、香坂に抱き寄せられた。
「うわ、わ、わ」
バランスを崩し、香坂の胸に倒れ込んだ私。目の前には、香坂の整った顔……。
「蓮さん! 起きてたんですか!? 狡い! 全部聞いてたのね!」
「お前が勝手にペラペラ喋ったんだ」
「わざと寝たふりをしたのね!」
「お前の様子が変だったから、もしやと思ってな」
「……蓮さん」
「寂しいならここにいればいい。どうして出て行くんだよ」
「だって……錦折さんが配属されるから」
「だから?」
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