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「私はもう不要な人間。必要とされる場所に行くことにしました」
「エステサロンに行くのか?」
私は首を左右に振る。
「蓮さんには感謝しています。でも私は不器用だから、数日で技術を身に付けるなんて所詮無理なんです。でも蓮さんには沢山学ばせていただきました。感謝しても仕切れないくらい……」
香坂は私を抱き寄せたまま、黙って見つめている。
「蓮さん……もう離して下さい」
「まだお前の質問に答えてはいないよ」
「私の……質問?」
「どうして俺が類にキスをしたのか。これが答えだ」
香坂の唇が私の唇を塞いだ。私は目を見開いたまま、目の前にある香坂を見つめた。
香坂の左手は私の背中を抱き、香坂の右手は私の後頭部に添えられている。
唇は捕らえられたまま、次第に思考能力がなくなり、見開いていた瞼がトロンと虚ろになった。
何故だかわからない。
抵抗すれば拘束から解き放たれたはずなのに、私は抵抗できないでいる。
香坂とキスをしているのに、脳内には三上の顔や鳴海店長、諸星や恭介の顔がぼんやりと浮かんでは消えた。
そして……
鮮明に浮かび上がる一人の男性。
ハッと目を見開き、香坂と視線が重なる。
「これが俺の答えだ。お前の答えも出たみたいだな」
「……ぇっ」
キスが答えだなんて……。
私の答えは……。
香坂はスッとベッドから起き上がる。
呆然と床にへたり込んだ私の頭を、大きな手でポンッと一回叩き背を向けた。
「……蓮さん、わけわかんないよ」
香坂は振り向くことなく、ドアはバタンと閉まった。
私はすでに泣きそうだ。
わかんないよ……。
ちゃんと言ってくれないと、わかんないよ……。
ポロリと零れ落ちた涙が、白いシーツを濡らした。
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