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 それは……

 スタッフとして手放したくないって意味だよね?


 私みたいなドジなアシスタント、いない方が仕事ははかどるのに。


 錦折塁がここに来たら、私はもう用無しだ。シェアハウスの部屋だって空室はない。


 香坂に指導してもらっても、私を受け入れてくれるエステサロンなんてないに決まってる。


 鳴海店長に推薦状を書いてもらったとしても、そこで私がヘマばかりすれば、鳴海店長に恥をかかせることになる。


 今の私に出来ることは、今の私を必要としてくれるところ。


 それが……

 私の居場所なんだ……。


 食器を洗い、キッチンを片付け浴室に向かう。脱衣所の籠には香坂の洋服。


 ここに来てすぐ、勝手に洗濯して大失敗した。香坂の洋服を分割で弁償するって約束は、まだ果たしていない。


 ◇


 それから一週間、私は笑顔を絶やすことなく仕事に励む。


 もともと営業を担当していた恭介は、人あたりもよくすぐに常連客とも馴染んだ。ブティックを担当しながら、閉店後はシャンプー、カット、カラー、パーマと毎日鳴海店長の指導を受けた。


 私は恭介のカットモデル。

 私の髪色はカメレオンのように毎日変化し、どんどん髪の毛がショートになり、ますます男性的になった。


 恭介の練習に付き合った後はシェアハウスに戻り、睡眠を削り香坂にエステの手解きを受けた。


「ばか、寝るな」


「……すみません」


 だって、最高に気持ちいいから。

 疲れていると、睡眠効果抜群なんだ。


「お前、何か隠してないか? 最近変だぞ? そのうち過労でぶっ倒れても知らないからな」


「大丈夫です。蓮さん、私にエステをさせて下さい」


「とびきり気持ちよくさせてくれよな」


「はい、頑張ります」

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