【17】美男は愛して楽しむもの

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「類、何やってるの!?」


 リビングにいた諸星と恭介が慌てて走り寄った。


「相変わらず、おっちょこちょいだな」


 二人は笑いながら、床に散らばる雑誌を拾い集めた。


「カンナじゃん。いい女だよなぁ」


 何も知らない恭介は、表紙を飾るカンナに見とれている。諸星は恭介の手から雑誌を奪い取り、手際よく紐でくくった。


「捺希さん、捨てるなら俺にちょうだい。カンナのファンなんだよね」


「うわ、最悪だね。カンナさんの名前はbeautiful magicでは禁句だから。NGワードだからね。この雑誌は恭介さんにあげないよ。類、処分するんでしょう?」


「はい」


「よく回収出来たね。もうカンナさんに気持ちがなくなったってこと?」


「……そうみたいです」


「あんなに執着してたのに。誰か他に好きな人でも出来たのかな? 鳴海店長に新たな恋だなんて、想像つかないな」


「……そうですね」


 咄嗟に惚けたが、私の目は左右に泳ぎ動揺は隠せない。


「まっ、いいや。勝手口の外に出しとくからね。収集日に捨てよう」


「はい」


「恭介さん、こっそり抜き取ったらダメだよ。そんなことしたらクビだから」


「クビ!? よくわかんないけど、抜き取りません」


 恭介は首を傾げながら、リビングに戻る。


「僕もシャワー入ろう。恭介さんの歓迎会はお開きということで」


「はい、捺希さん最後までお付き合い下さりありがとうございました。俺もちょっと飲み過ぎました。休ませていただきます」


「おやすみなさーい」


「おやすみなさい」


 私は散らかったダイニングテーブルの上を片付け、シンクへと運ぶ。


 あんなに沢山作った餃子やスペアリブは綺麗になくなっていた。


 きっと恭介が全部平らげてくれたんだね。相変わらず凄い食欲。空になった食器を洗いながら、ちょっと嬉しかった。


 ――『類の希望を叶えたい』


 鳴海店長の言葉が過る。


 ――『本当は……手放したくない』

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