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「でも、どうして営業から美容室に異動願いを?」
「どうしてかな。類が頑張っとるって知って。俺も逃げるわけにはいかないなって」
「逃げる?」
「美容師の資格があるのに、ずっと営業に逃げてた。人と話すのは得意じゃけど、美容師という職業に自信が持てなかったから」
「そんな弱気で仕事が勤まるのかよ。beautiful magicのお客様はプロの技術を求めて来店されるんだ。一人の失敗は店全体の信用を失う」
香坂の言葉に、私は耳が痛い。きっと私のことを言ってるんだよね。
「恭介には暫くブティックを担当して貰う。閉店後にカットやカラー、パーマの特訓だ。俺が責任を持って指導するよ」
鳴海店長の言葉に、恭介がグラスを置き深々と頭を下げ、ゴツンとテーブルに頭をぶつけた。まるでコントみたいだ。
ドッと笑いがおき、恭介は「テヘヘ」と笑った。
「皆さん、こんな俺ですが、宜しくお願いします」
「恭介は捺希や類よりも年上だが新人として扱うからな」
「はい。ビシビシ扱いて下さい」
香坂は食事を済ませると、時計に視線を向けた。
「類、もう食ったのか?」
「……あっ、はい」
「食べたら、特訓だ」
「はい」
私はグラスと食器をキッチンに持って行く。急いで洗い、エプロンを外した。
恭介は鳴海店長の話を熱心に聞いている。諸星はビールを飲みながら私と香坂の姿を目で追った。
『頑張って』と言わんばかりに、グラスを持ち上げた。私はそれに応えるように、笑顔を作る。
リビングでは三人の話し声がする。私の部屋に入ると香坂はドアを閉めた。
ドアを閉めてしまうと、狭い個室に二人きり。エステの指導は受けたいが、あの日キスされたことが頭を過る。
「早くベッドに寝ろよ」
「えっと……はい」
まさかもうキスはしないよね。ていうか、どうしてキスをしたのか聞きたい。
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