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去るべき人間は三上ではない。
この私なんだ。
涙が溢れて、止まらない。
両手で顔を覆い、声を上げて泣いた。
◇
「類、起きなよ。類ってば」
諸星に体を揺さぶられ、私は重い瞼を開く。目の前のワイングラスは空っぽだ。
深夜、香坂が部屋に戻ったあと、ワイングラスに残った赤ワインを一気に飲み干した。
まるで毒薬を飲み干すみたいに、ワイングラスを空にし、傍にあったワインのボトルも空にしたらしい。
「あたまが……いたい」
「バカだね類は。お酒飲めないくせに」
二階から鳴海店長が降りて来た。その後ろから三上の姿。一階のドアが開き、香坂が姿を現す。
全員が顔を揃え、私は気まずい。
「類、北麹のことだが」
鳴海店長の言葉に、私は真剣な眼差しを向けた。
「鳴海店長、私……仕事に支障をきたすかもしれませんが……」
「類?」
「警察に被害届を提出します。beautiful magicをスキャンダルに巻き込んでしまうかもしれません。でも泣き寝入りはしないと決めました。申し訳ありません」
「そうか」
「やはり女性として北麹さんを許せない。一晩よく考えました。私にとってbeautiful magicは光輝く場所。こんなことで汚したくない。皆さんにご迷惑は掛けたくない。私、退職します」
「類、退職は認めない」
「鳴海店長……」
「北麹のことと波瑠のことは別問題だ。今回のことで、波瑠の処分は免れないだろう。今朝早く人事部から連絡があり、早急ではあるが波瑠の異動が決まった。beautiful magicには波瑠の代わりに新しいスタッフが配属される」
「……そんな。鳴海店長、処分するなら波瑠さんではなく私を解雇して下さい。波瑠さんに落ち度はありません」
「波瑠は再雇用にも関わらず、トラブルを起こした。本来なら解雇されても仕方がないことだが、波瑠の実績を認められ解雇は免れた。だが異動は免れないよ」
私はその場にへたり込む。
三上はそんな私を優しい眼差しで見つめた。
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