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「類、これでいいんだ。俺は納得済みだから。類よく決心したね、被害届を提出するなら俺が付き添うよ」
「波瑠さん……」
「俺は地方に異動になる。でもbeautiful line corporationが好きだ。だから逃げない。いつか東京に戻る。その時は店長として戻れるように異動先で精進するよ」
「どこに行くの……」
「広島のbeautiful lounge、今年ファッションショーで特別賞を受賞した店だよ」
「……広島」
「広島からスタッフを迎えることになった。それまでは類、シャンプーやメイクを担当してくれ」
「私が……メイク。錦折塁さんではなく、新しいスタッフは広島から来るんですか?」
「そうみたいだな。人事部のすることは、俺にはよくわからない」
◇
三上の辞令はすでに決定事項として、公式サイトでも発表され、私は三上の顧客の対応と予約リストの変更に追われた。
警察に被害届を提出し、北麹は容疑をあっさり認めた。認めることでこちらが示談に応じ、穏便に済ませることが出来ると思っていたらしいが、北麹のセクハラ行為は経営する会社の女子社員にも行われていたことが警察の調べで判明し、マスコミにもバッシングされ、社会的な信用を失い社長の座を追われた。
――それから三日後、三上は休日ではなく、営業日に広島に出発することになり、見送りは不要だと一人で東京駅に向かった。
私はお客様のシャンプーをしながら、壁時計に視線を向ける。
カチカチと鳴る時計の音……。
時刻は午前九時半を回った。
三上の新幹線の出発時間は十時三十八分。時刻は刻一刻と迫る。
このまま……
別れていいの?
類、本当に……いいの?
「熱いっ!」
「小池様申し訳ありません」
「気をつけてよ。最近このお店評判よくないよ。あなたが来てトラブルが続いてる。せっかく波瑠さんが復帰したのに、広島に異動になったのは、あなたが原因だって噂もあるんだから。せっかく築き上げた人気も、一人の未熟なアシスタントのせいで、一瞬で失うことになるんだからね」
「……すみません」
悔しいけど小池の言ってることは正論だ。
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