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「北麹様、類のシャンプーはお気に召されましたか?」
小池のヘアメイクを終えた香坂が、私の手首を掴んでいた北麹の手をほどく。
「北麹様、勘違いされいるようなので申し上げますが、錦織類は正真正銘女性ですから」
「君が女性?」
北麹は目を見開き私をまじまじと見つめた。香坂は椅子を起こし諸星に目で合図する。
「北麹様、こちらへ」
諸星の声かけで、北麹は訝しげな顔をしながら、諸星の元に行く。
「女だったなんて、驚きだよ。捺希君の方がよっぽど女らしい」
「やだな、北麹様。僕は男です。女らしいだなんて、誉め言葉にはなりませんよ。今日はどうなさいますか?」
「スッキリしたいから、ニセンチくらい切ってくれ」
「はい畏まりました」
「しかし驚いたな。女とはな。この店のスタッフは男だけだと思っていたから」
小池も店内にいた他のお客様も、私が女性だと知り驚きを隠せない。
「鳴海店長、本当なの? イケメンだとは思ってたけど、女性だったなんて仰天だわ。今まで失礼なことを沢山言ってごめんなさいね」
「いえ」
「男ではないって、否定すればいいのに。否定しなかったのは、鳴海店長の命令だったの? 鳴海店長も意地悪ね」
麻木は小池の言葉に笑いを堪えている。すでに公式サイトを閲覧し、私が女だと知っているみたいだった。
北麹はまだ納得がいかないらしく、鏡に移る私を陰湿な眼差しで見つめた。
「お客様に類が男性であると誤解を招いたことは、お詫び致します」
鳴海店長はお客様に私が女性であると公言した。
ていうか、本当は『いつバレるか』なんて、全員で賭けをしていたくせに。
でもこれでやっと本来の自分に戻れた気がした。男物の制服を着ているけど、女に戻れた気がしたんだ。
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