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――店を出た私達、三上はソッと手を握った。
「類、二人で飲みに行かない?」
「波瑠さん……」
真っ直ぐ向けられた優しい眼差し。
ダメだ……。
飲みに行ったら、私は平常心を無くしてしまう。それに、大体飲めないし。
二人とも、記憶無くしちゃうでしょう。
私は酔っていない三上と話しがしたい。
「波瑠さん、私がお酒を飲めないこと忘れたの?」
三上はにっこりと笑った。
「覚えてるよ。全部覚えてる」
全部? 覚えてる?
それ……どういう意味?
「全部って……?」
「シェアハウスでキスしたことも、全部覚えてる」
「えぇー……!? 波瑠さん、深酒すると記憶無くすんですよね! キス魔になるってみんなが……」
「確かに酔うとキス魔になるのは本当だ。朧気な記憶しかない。悪意はないけど全部忘れたことにすると、周りを傷付けなくてすむ。だから、みんなの前ではそうしてるだけ」
「えぇー!? あれは……嘘!?」
でも、キス魔は本当だなんて。
どう解釈したらいいの?
「類も嘘をついた。俺とのキスを忘れた振りをした。違う?」
「わ、わたしは……波瑠さんとシェアハウスでキスなんてしてません」
私は……嘘をついてる。
三上にバレてるのに、まだ嘘を突き通す。
三上の気持ちが、よくわからなくて。
甘い言葉も、信じられなくて。
恋をすることが怖くて、臆病になってるんだ。
「まぁ、仲のいいこと。今夜は蒸し暑い夜ですね」
路地から姿を現したのは、紅色の鮮やかな着物。艶っぽい声の主は、恋唄の店主ゆきさんだった。
私は慌てて三上の手をほどく。
ゆきさんの隣には……香坂!?
ゆきさんは、ほどけた後ろ髪を指で直す。
「蓮さん、またいらしてね」
「ゆき、おやすみ」
香坂は少し酔っているみたいだった。
「蓮さん、酔ってるの?」
思わず駆け寄る私。
香坂が私と三上に視線を向けた。
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