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「類の傍にいたいと思った。渡米する直前、RUSHIANAの社長に契約破棄を申し出た。当然、社長もすぐにOKはくれなかった。だから『後任が決まるまで』という約束で、ニューヨークに行ったんだ」


「初めから……辞めるつもりでニューヨークへ」


「ニューヨークでの二ヶ月はいい勉強をさせて貰った。刺激的だったし、日本とは違う感性も学んだ。ハリウッド女優のヘアメイクもさせてもらった。貴重な経験だったし、雑誌にも掲載された」


「だったらどうして」


「どうしてだろう。類を蓮さんに渡したくなかったから」


「……蓮さんは私なんて眼中にありません。女としてこれっぽっちも意識なんてしてない。野蛮だし俺様だし、それに……」


 フワッと唇があたたかなものに包まれた。


 私は目を見開いたまま、何が起こったのか理解できず固まっている。


「……っ」


 三上のキスは……

 以前交わしたキスよりも情熱的だった。


「……ぁっ」


 崩れ落ちそうな体を、三上は両手で抱き締めている。


「波瑠さん……待って……」


 繰り返されるキスに……

 私の心も体も翻弄されている。


 ガタンと外で大きな音がし、窓に掛かったブラインドが揺れた。


 三上は私から離れドアを開けた。ドアの外に置いてあった店の看板が倒れていた。


 三上は看板を両手で抱え、店内に取り込みドアの鍵を掛け、窓を閉め少し傾いていたブラインドを直した。


「誰かに……見られたのでは……」


「風だよ。今夜は風が強いから」


 動揺した私は、モップを掴み掃除をすませる。


「波瑠さん、お先にどうぞ。私が戸締まりして帰りますから」


「類、着替えておいで。待ってるから」


「……はい」


 火照る体を冷ましながら、私は制服を着替えた。

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