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 諸星は私の頬にチュッとキスをした。


「ひゃああ」


「いい声だね。僕だってヤキモチ妬くんだよ。波瑠さんと蓮さんに類を取られた気がしてさ」


「波瑠さんも蓮さんも、私を女として見ていませんから」


 三上とキスしたことを思い出し、カーッと頬が熱くなる。


「類は正直だね。本当は波瑠さんのこと、気になってたでしょ」


「ち、違います」


 私はロッカーから制服を取り出し、ロッカールームのカーテンの中に消える。


 三上が昨夜beautiful magicに来たなんて、全然知らなくて。


 香坂と私を見て、黙って帰るなんて。


 私に『さよなら』も言わせてくれないなんて。


 ……狡いよ。


 ◇


 その日から私は三上のお客様に事前に電話をし、指名変更を聞き、鳴海店長、香坂、諸星のスケジュールに組み入れていくことが、主な仕事となった。


 まるで三人のマネージャーのように、スケジュールを調整する。


 戦場のような職場で、それでも笑顔は絶やさない。


 これは三上に教えてもらったから。


 仕事を終えると、香坂にシャンプーの指導を受ける。


 私よりも三人は疲労しているはず。なのに香坂は毎日私に指導してくれた。


 厳しい罵声も、みんなの負担を考えると、頑張らなくてはいけないと奮起できた。


 ◇


 三上が退職し、一ヶ月以上が経過し、雨が続く梅雨時期。


「蓮さん、今のどうですか? 蓮さん……?」


 深夜いつものようにシャンプーの特訓をしていた私。無言の香坂に、ついにキレられてしまったと激しく落ち込む。


「蓮さんすみません。もう一度やり直します」


「……スーッ」


 えっ?


 今の……寝息?


 まさかね?


 香坂の顔を覗き込むと、香坂は瞼を閉じていた。

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