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 香坂の鼻先に耳を近づけると……。


「……スーッ……スーッ……」


 やっぱり……寝息だ!?


 私のシャンプーで寝たのかな?

 まさかね。疲労が蓄積して寝たんだ。


 三上のお客様は五割は香坂に流れ、あとの五割は鳴海店長と諸星が半数ずつ担当している。


 もともとこのお店での指名率は香坂がダントツ一位だったから。香坂が過労でダウンしても不思議はない。


 香坂の髪の水分を優しくタオルでとり、ドライヤーでゆっくりと乾かす。


 椅子を少しだけ起こし、ロッカールームから毛布を持ってきて香坂の体に掛けた。


 鬼の香坂も寝顔は優しいな。こんな顔して寝るんだね。


「ふぁぁー……」


 シャンプー台を綺麗に洗い、美容室の照明を落としロッカールームに向かった。


 そのままバタンと倒れ、私も眠りについた。


 ◇


「いつまで寝てんだよ」


「きゃあああー……」


「あほ、キャアキャア喚くな」


 私は毛布にくるまれ目を覚ます。この店には仮眠用の毛布は一枚しかない。


「蓮さん……おはようございます」


「起こせばいいのに、何で起こさないんだよ」


「だってお疲れだったから」


「椅子で寝ると疲れが取れないだろ」


「……すみません」


 ロッカールームのドアが開き、鳴海店長と諸星が入って来た。


 ヤバい、もうそんな時間……!?


「すみません。おはようございます。すぐに毛布を片付けます」


「また寝ちゃったの類。蓮さんのシャンプーはキモチイイからね」


「捺希、寝ちまったのは俺だ」


「えっ? 蓮さんが? まさか?」


「鳴海店長、今日から類がシャンプーを担当します」


 私、寝ぼけてるのかな?


 今、私がシャンプー担当って聞こえたような……。

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