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「開店準備する前に、さっさと動け」


「はい」


 私は香坂の指使いを思い出しながら、香坂の髪をシャンプーする。


 指の腹で優しく、かつスピーディーに。


 今朝の香坂は、何も文句を言わない。ただ黙って、私にシャンプーさせている。


 やっぱりダメだよね。

 香坂みたいに、上手くは出来ない。


 シャンプーをし、椅子を起こしてタオルで水気を取る。


「あの……どうですか?」


「今夜も時間あけとけ」


 やっぱり……。


 ガックリ項垂れている私に、香坂がポツリと言った。


「今の指使い、忘れるなよ」


「はい」


 ちょっとだけ……


 嬉しくて。


 ちょっとだけ……


 心の中がほんわか温かくなった。


 ◇


「おはようございます。蓮さん、類ここに泊まったんだ。蓮さん特訓の成果は?」


「一晩で成果は上がらないよ。波瑠はよくこんな落ちこぼれに毎晩付き合えたな。捺希、波瑠は?」


「昨夜、店に来ませんでしたか? 波瑠さん、二人が心配だからって、あのあとシェアハウスを出たんだけど」


「波瑠が昨夜ここに? 来てないよ」


「そうですか。おかしいな。波瑠さんはもう空港に行きました。蓮さんと類に宜しくと言ってました」


「そうか、忙しくなるぞ。類はまだシャンプーは無理だ。暫く俺が特訓する。類、制服に着替えろ」


「はい」


 私は諸星とロッカールームに入る。ロッカールームの毛布は片付けられ、綺麗に整頓されていた。


「類、一晩中シャンプー? なわけないよね。ここで仮眠したの?」


「はい」


「二人で?」


「……な、なにもしてませんからね。蓮さんと私の間に、男女の関係は成立しませんから」


 諸星はニヤッと笑う。


「僕達の間には成立するのかな?」

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