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 私に足りないものを……

 香坂は全て持っている。


 あまりの気持ちよさに……


 私は瞼を閉じたまま……。


 ◇


「うわっ!?」


 瞼を開けると、周りはロッカーだった。私の体には毛布が掛けられ、私の隣には……。


「きゃあああー……」


 こ、こ、香坂!?


 同じ毛布にくるまり、私達は仲良く寝ている!?


「キャアキャアうっせえーぞ。耳の傍で騒ぐな」


「香坂さんっ! どうしてここに」


「お前が寝るからだろ! 洗髪中に爆睡する女なんて初めてだよ。シェアハウスの床で寝たり、本当に何処でも寝る女だな。女としての恥を知れ」


「……っ、そこまで言わなくても。蓮さん、私に何もしてないですよね」


 私は毛布を手繰り寄せ、体を隠す。


「あほ、誰がお前なんか抱くか。毛布が一枚しかなくて、仕方がなかったんだよ。今、風邪を引くわけにはいかないからな」


「あの、今……何時ですか?」


 香坂は腕時計に視線を落とす。


「午前六時だよ。さてと、起きるとするか。類、珈琲入れてくれ」


「はい」


 私……

 香坂と一夜を……ここで。


 急に恥ずかしくなり、美容室の鏡で自分の姿を映す。髪は寝癖ではねて、素っぴんの肌はカサカサしてる。


 確かに……こんな女、誰も抱く気にはならないな。


 ミニキッチンで珈琲を入れると、すでに制服に着替えた香坂が、美容室のカウンターで今日の予約を確認していた。


「蓮さん、珈琲どうぞ……」


「サンキュー」


 香坂は珈琲を飲みながら、パソコンを操作している。


「それ飲んだら俺の髪をシャンプーしろ。不合格なら、今夜も特訓するぞ」


 今夜も!?


 まじで、勘弁して欲しい。


 大体、同じ毛布にくるまり、二人で寝たなんて……。


 みんなに知れたら、誤解されるよ。

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