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諸星とのことは全然記憶にない。本当に男女の一線を越えてしまったのか、その痕跡すらわからない。
でも諸星は何かにつけて、あの夜のことを持ち出す。やっぱり私は諸星と一線を越してしまったのかな。
昨夜は酔っぱらった三上に襲われそうになるし、鳴海店長にも抱き着かれるし、ケダモノの香坂が一番まともに感じてしまうくらい、最近の私は病んでいる。
「類専用の更衣室作ったの誰だと思う?」
「えっ? 波瑠さんでしょう?」
「ブブッー! ハズレ」
「捺希さんですか?」
「ブブッブブッ」
違うの?
「鳴海店長?」
「ブブッブブッブブッ」
「冗談はやめて下さい。蓮さんのわけないでしょう。蓮さんは意地悪だし、私に『脱げ』なんて命令したくらいなんですよ。あんな変態ケダモノがこんなことをしてくれるはずがない」
着替えを済ませ、カーテンを開くとそこには諸星の姿はなく……。
「変態ケダモノで悪かったな」
ムスッと剥れた香坂と、クスクス笑ってる三上と、呆れ顔で私を見つめる鳴海店長が着替えていた。
全員上半身裸。
ケダモノは下着だけ。
しかも黒のボクサーパンツ、ま、ま、前を向かないでー!!
「し、し、失礼します!」
見てはいけないものを直視し、瞼を閉じロッカーに頭をぶつけ無様に転んだ私を、三人が見下ろしてケラケラ笑ってる。
「きゃああー! 失礼します!」
四つん這いで三人の輪の中から逃げ出し、ロッカールームの隅に置いてあるモップを掴み、部屋を飛び出した。
猛獣の檻の中に放り込まれた可哀想な仔ウサギの心境だ。
「捺希さん、こっそり出るなんて狡い」
「あはは、ごめん。刺激強すぎた?」
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