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シェアハウスだけでも、毎日ドキドキして死にそうなのに、職場もだなんて勘弁して欲しい。
でも……意外だった。
あの香坂が、気配り出来る人だったなんて。人は見掛けによらないな。
制服に着替えた三人がロッカールームから姿を現す。昨夜のだらしない姿とは異なり、凛とした立ち姿だ。
「類、ちょっと触らせろ」
「ひゃあ、セクハラは断固禁止します」
「ばーか、髪質と毛の流れを見たいんだよ。ここに座れ」
やだな、勘違いする言い方しないで。
「……はい」
椅子に座ると香坂は私の髪に優しく触る。指で髪の毛を掬い照明の光に当てたり、指で触ったり。
何か……変な気持ち。
香坂に触れられると、体の中が熱くなる。
今まで複数の美容師さんに、ヘアメイクをしてもらったことはあるが、こんな感覚は初めてだ。
「恍惚の表情をするな」
「し、してません! 絶対、してません!」
「お前、今日仕事終わったら残れ。無償の残業だ」
「無償の残業!?」
「鳴海店長、店と類を使います」
「わかった」
『類を使います』って、まるでモノみたいな言い方。
「ほら、いつまで座ってんだよ。仕事しろ」
香坂が座れって言ったんだよ。命令ばかりして、女は香坂の言いなりになるロボットじゃないんだから。
◇
――その日も、開店と同時に店内は女性客で溢れた。あの香坂が店で一番人気だという理由が、少しだけわかった気がした。
口の悪さとは反比例する指先のしなやかさ。髪や肌に触れた時の感触は、今まで体感したことがない。
心地よさを通りすぎ、快感とさえ思えた。
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