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鳴海店長こそ、昨日荒れていたくせに。
店では誰もが憧れるbeautiful magicのスタッフ陣だが、素顔の彼らは普通の男性。失恋したら酒に溺れ、嫌なことがあったら酒に溺れ、毎日酒に浸かり、溺死寸前だよ。
みんなより一足先にシェアハウスを出て、諸星と一緒に店に向かう。ロッカールームに入った諸星は、さっさと洋服を脱ぎ始め、私は背中を向けロッカーを開ける。
「捺希さん、波瑠さんいつもはあんなに飲まないの?」
「うん、波瑠さんはどちらかというとあまり飲まないよ。蓮さんは強いけど、波瑠さんはお酒に飲まれるタイプだからね。どうしたのかな、最近変だよね」
「何かあったのかな?」
「男には色々あるからね」
やっぱり女性絡みかな?
「類、波瑠さんが気になるの? 僕より気になる?」
「捺希さん……」
「昨夜波瑠さんは一階の浴室を使ったみたいだね。類、もしかして何かあった? 一緒にお風呂に入ったとか?」
「冗談はやめてください」
「入ったんだ」
「ち、違います。私、波瑠さんの裸なんて見てませんからね」
「波瑠さん意外と逞しい体してるでしょ。脱ぐといい体してる」
「はい」
「ほら、やっぱり一緒に入ったんだ。類は正直だね」
しまった……。
諸星の誘導尋問に、うまく引っかかった。
「僕とどっちが良かった?」
「わ、わ、何もしてないですよ。波瑠さんが酔って脱衣所に乱入しただけで。私はもうスウェット着ていたし、波瑠さんも記憶にないくらいですから」
「類、スウェット着てたの? それは残念だったね。僕も残念だよ。類は僕達のことも、何も覚えてないんだから」
諸星は思わず振り向いた私の鼻先にチュッてキスをした。鼻先にキスをされるなんて生まれて初めてで、カーッと頭に血が昇った私は制服を掴みカーテンの中に逃げ込む。
諸星とロッカールームで二人きりなんて、山で熊に遭遇するより危険過ぎる。
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