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「……ん? あれ?」


 鼓膜にスースーと心地よい寝息が聞こえた。


「鳴海店長? 酔い潰れたの? やだ……鳴海店長?」


 ソファーに押し倒された私の体に、鳴海店長の大きな体が覆い被さっている。


 身長百八十センチ以上ある鳴海店長。スレンダーとはいえ、寝ると重くて動かせない。


 困った……。


 ど、どうしよう……。


 こんなところを帰宅した三上に見られたら、私と鳴海店長のことを誤解されてしまう。


 ガチャンと部屋のドアが開く音がした。


「お前、何やってんの? 鳴海店長とこんなとこでやる気? お盛んだな」


 もっと最悪だ……。

 ケダモノに目撃されるとは。


 だけど、この非常事態。

 ケダモノが救世主になるかも。


「蓮さん、くだらないこと言ってないで、助けて下さいよ」


「助けていいのかよ? そのまま朝を迎えたいんじゃねぇの?」


「何を言ってるんですか、助けて下さいよ。鳴海店長は酔い潰れて寝てます。おもりみたいに重くて動かせないんです」


「しょうがないな」


 香坂は鳴海店長の体を起こし、ソファーに横たわらせ体に毛布を掛けた。


「よかった……。ありがとうございました」


「お前さ、本当に無防備だな。男を信用し過ぎると、そのうち痛い目に遭うぞ」


「痛い目?」


「たとえば……こんな風に……」


 香坂は私に唇を近付ける。

 触れそうで触れない唇に、思わず声を上げる。


「ひゃあ……」


「ってな。お前を吊り上げるのは、釣り堀の魚よりも簡単だ」


「失礼ね。私は簡単には釣れません」


 香坂は私の額を指で押した。


「早く寝ろ。睡眠不足は化粧のりが悪い。ファッションショーで失敗するわけにはいかないんだからな。食事と睡眠は大切なんだ。エステシャンならそれくらいわかるだろ」


「……はい」

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