【6】美男は手に触れて楽しむもの

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 初日の仕事を終え、シェアハウスに戻った私は、早速鳴海店長から説教された。


「類、今日一日の仕事を言ってみろ」


「今日は……店内の掃除と、ドリンクサービス。他には……」


 私……

 それ以外はレジを少し触っただけだ。


 仕事らしいことは何もしていないのに。ヘマばかりしている。


「今日はすみませんでした」


 みんなはビールを飲みながら、各自食事を始めた。


「試着用のクリーニング代は給料から天引きするからな」


「……はい」


「鳴海店長、もうその辺でいいでしょう。類も反省してるし」


 三上の言葉に鳴海店長は眉をしかめ、香坂は小バカにしたように口角を引き上げた。


 ショックから落ち込んでいる私に、三上はパンにレタスとボイルしたウィンナーを挟み、マスタードとケチャップをつけた手作りのホットドッグを差し出した。


「夕食買ってないんだろう。それ食べていいよ」


「波瑠さん……すみません」


「あー……いいな。類だけ狡い。波瑠さん僕にもちょうだい」


「いいよ」


「わーい、ありがとう」


 甘えたような声を出す諸星は、beautiful magicの店内で、テキパキと仕事をこなしていた人物とは思えない。


「いただきます。美味しい! 類、いつまでもヘコんでないで食べたら?」


「はい。いただきます」


 三上と諸星の優しさに、お酒を飲んでないのに涙腺は崩壊しそうだ。


 感情が高ぶると、味覚もわからなくなるんだね。

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