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午後八時、最後のお客様を見送り店を閉めた。掃除に追われる私達、鳴海店長はレジを締め、一日の売り上げをパソコンに入力して、現金の集計をし、合算を確認すると現金を銀行の夜間金庫専用バッグに入れた。あとは夜間金庫に預けるだけ。
諸星はシャンプー台の清掃をしている。
時刻は午後九時になり、私はみんなが着替えたあと、一人でロッカールームで着替えを済ませる。
足は棒のようだ。
一日でヘトヘト。
ロッカールームでへたりこんでいると、不意に香坂がドアを開けた。
「なにしてんだよ。帰るぞ」
「はい」
「あっ、そうだ」
香坂は私の顔にヌーッと顔を近付けた。鼻先が擦れ合う距離だ。
「ハァーって息吐いてみろ」
意味わかんない。
これはセクハラ? パワハラ?
「ハァーって吐いてみろよ」
ド変態! 鬼畜! ケダモノ! 場所を弁えろ。
「な、なんですか」
「キスの味は相手によって違うと言ったはずだ。今お前とキスすると、ニンニク臭いのかなって、ふと思っただけだよ」
「し、失礼ね。昨日何度も歯磨きしたし、口臭スプレーを何度もシューシューしたんだから、今キスをしてもニンニクの味なんてしません」
「そうか? じゃあどんな味?」
私の鼻先でクンクン臭いを嗅ぐ香坂。やな性格だな。
唇が近過ぎて、鼓動のリズムが乱れる。
「し、試食はお断りですから。お引き取り下さい」
「は? 試食? プッ、お前の唇なんて食わねぇよ。ほら、帰るぞ」
香坂は私からスッと離れロッカールームを出る。思わず両手で口の周りを拭う。
キスされるかと思った。
香坂が私にキスするわけないのに、ドキドキしている私は、どうかしてる。
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