45

 諸星の手はすでに私の腰に回されている。


「捺希さん、掃除しないと」


「そうだね。掃除道具はロッカールームの端に置いてあるから。掃除機、モップ、ホウキ、全部揃ってるから。その前に制服に着替えよう。悪いけどここは元々スタッフは男だけ。女性用のロッカールームなんてないから」


 うわ、これは……。

 どう返事すればいいの。


 イエスともノーとも言えない。


 ロッカールームに入ると、諸星はロッカーの鍵を私に渡した。ナンバー5が私のロッカー。諸星はナンバー4。


 諸星は私に背を向け洋服を脱ぐ。私も諸星に背を向け、セーターを脱ぎブラウスに袖を通した。


 ドキドキしてるのは私だけ? 諸星はさっさと制服に着替えているのに、私は背後にいる諸星が気になって仕方がない。


「類、時間短縮しないと。ズボン脱がしてあげようか?」


「ひゃっ、結構です」


 思わず壁に避難する私。


 諸星は笑いながら、入り口に立て掛けてあったモップとホウキを手に取った。


「す、すぐ着替えます!」


 この狭いロッカールームに、私専用スペースを作らないと。カーテンで仕切るしかないな。


 とにかく自分の身は自分で守る!


 掃除機片手にロッカールームを飛び出し、諸星のあとに続いた。


 美容室の隣室はブティックだ。店内には高価な洋服がずらりと並んでいる。beautiful lineのオリジナル商品だ。


「類はブティックの掃除をお願い。掃除が済んだら、レジとパソコンの使い方を説明するね。予約は指名制、電話を受けたらパソコンでスケジュールを確認して予約を入れること。基本給に指名料金がプラスされるから、一度いただいた指名は変更出来ないからね」


 そんなシステム? まるでホストクラブだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る